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明智サマー之助 描く

以前もありましたが、鬼武者とのコラボレーションです。
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「ミカドの国のスパーダ」>>0-29
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モンサンミシェルの魔女」

見なくても良い予告編>>31-36

ぜひ見て下せえの本編>>37-

 


 Re: キャプテン・スパーダ予告編 ( No.31 ) 
日時: 2004/07/16 17:45
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」(仮題)
予告編その壱
ヴェニスに死す」ヴァージョン
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おおい若いの
橋の上から唾なんか吐くもんじゃない
悪魔に見込まれるから

ヴェネチアで出会った老人はそう言うと銭をせびった。

オマエは悪魔にあったことはあるか
乃公(オレ)はある
こっちのだけで無いぞ
東洋の悪魔にもだ
何かの比喩じゃないぞ
本物の悪魔だ
しかも
乃公(オレ)は悪魔の従者をしていたんだ
聞きたいか
一杯飲ませろ

オマエに悪魔の話をしてやろう

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 リアルト橋から下を通るゴンドラに向けて唾を吐いていた乃公(オレ)は、だしぬけに巨大な手で首根っこをつかみ上げられた。

 「うむ、おまえは使えそうだ」
ターバンを巻いたアラビアの巨人に、イキナリそんなことを言われて顔を覗き込まれたら、たといお天道様が高かろうとも心細くなるだろう

 「おまえに仕事をやろう」
巨人はそう言って乃公(オレ)を前に歩かせた。
 逃げようとすると背後から長い腕が伸びて
「そっちじゃない、ふらふらするな」叱咤される。

 乃公(オレ)は路行く人、誰でもいい、助けを求めたかった。
 だが、前を歩かされるという状況は、一か八かの勇気を挫く。
 首筋がバターのように融け出すのではないかと思われるほど熱い視線を感じながら、乃公(オレ)は
「どうして故郷で大人しく漁師をしてなかったのだろう」
国を出た自分の選択を呪っていた。

 リアルト橋を渡って、大運河沿いに下流へ進んだ五つ目の角を曲がると路地が開けた。
その約20m先に小ぶりながら立派な作りのホテルがある。
 巨人が乃公(オレ)を連れてきたのは
官営の外国人向け高級ホテル「ロカンダストゥリオン」だった。

 「建物の中に入ったらいよいよ御仕舞いだ」
乃公(オレ)の中に残されていた最後の防衛本能が騒いだ。
 柱にかじりついて泣き叫んででも
これ以上、この巨人と同行するのは止めようと思ったとき
どんと背中を押されて乃公(オレ)はホテルの中に連れ込まれていた。

 無頼漢に拉致された処女の気持ちが少し分るような気がした。
 階段を上がっている間も震えが止まらない。

 「ここだ」
巨人がドアをノックする。
 「入れ」
ドアの向こうで冷たい声が響いた。
 地獄の門は滑らかに開く。
    
そして乃公(オレ)の人生最悪の日々は始まったのだ。

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 Re: キャプテン・スパーダ予告編 ( No.32 ) 
日時: 2004/07/16 17:19
名前: 明智サマー之助


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 窓の下を運河が流れる部屋で、乃公は巨人の連れたちに対面させられた。

 紫色鮮やかなロングスーツをまとって、寛いだ按配の酷薄そうな表情の男が先の声の主だった。
 モノクルをいじりながら、珍しいものを見るように乃公を観察している。

 その隣で酒を飲んでいる小柄な男は、ジロリと乃公に一瞥をくれて
「なんだ、この野郎は?」と残忍そうな顔に好奇心をにじませる。

 「新しい従者だ」と巨人は唸るような声で答えた。

 「従者だあ?こいつが」と小男はグラスを持った手で俺に指を突きつけた。
 「おまえ、国はどこだ」
 「ブルターニュです」
 「イタリア語が上手いな」
 「船乗りですから」
 「気は効くか?」
 「はあ?」
 「きかないみたいだな」小男は興味をなくしたようにそっぽを向くと再び酒をあおり始めた。

 替わって
「わたしはスパーダ」と銀髪の男が静かな声で言った。
「外国から来た私の友人のために、日常の不便を代行してくれる従者を探していた」

 「仕事というのはそのことですか」
 「君にその気があれば日当は50サンチーム払おう」
 「おいおいマスター、こんなヘナチョコを雇うつもりですか」
小男が異を唱えた。
 どういう関係なのだろう?
 主従の関係にしてはこの男、態度がでかすぎる。

 「イフ公もなんでこんなのをひっ攫ってきた。使えねえぞぉコイツ」
 「この小僧は頭が良い」と巨人がオゴソカに言った。
 「何故わかる」と問われて巨人は、
まるで予言を行うゼウス神像のように威厳に満ちた態度で
「この小僧は橋の上から唾を吐いておった。
川面に唾を吐き思索にふけるのは頭の良い人間の通例である。
ゆえに連れてまいった」と御託宣を下した。

 小男はグラスを取り落とし、スパーダと名乗った男はうつむいて呼吸を止めている。
 巨人は凉しい顔で満足そうにうなづいている。

 乃公は、巨人が乃公に眼を付けた理由を知って
「マリアさま、二度と唾を吐きませんからお助けください」
心の中で叫んでいた。

 「わかった、イフリート」とスパーダは手をひらひらさせると
「本人に面談させてみよう。話はそれからだ」
 巨人はさらに満足そうにうなずくと
「セキシュウサイ殿はいづこへ」と訊いた。

 「ゴンドラで遊んでいる」
 「やはり、ヴェネチアに来た外国人は、皆あれに乗りたがるのですな」
 「そして懲りて二度とは乗らない」スパーダはくすくす笑う。
階下で怒号が響く。
「ほら、帰ってきたようだ。案の定、機嫌が悪いぞ」

 「くそう、エライ目にあった」と怒鳴りながら入ってきたのは東洋人。
イタリア語である。
 「船に乗っていたら橋の上からイキナリ臭い唾を吐きつけられた」
激怒している。
 「あの若造、顔はしっかりと覚えたから、
今度会ったときはタダおかねえ」と乃公の方に首を回し、動きを凍結した。
 やがて、
仮面のように硬い表情の顔面に、じんわりと笑いの線が刻まれ始める。

 ばかなウサギがノコノコと自分の巣穴に迷い込んできたら、虎は多分こんな笑い方をするのだろう。

 乃公は東洋人の瞳に映る自分の姿を見た。
 両掌を頬にあて、縦に長く伸びた口で声にならぬ「叫び」を発する貌。

 死相が浮かび出ていた。

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 キャプテン・スパーダ予告編 ( No.33 ) 
日時: 2004/10/25 12:08
名前: 明智サマー之助

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キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」(仮題)
予告編その弐
「挑戦!嵐の海底神殿」ヴァージョン
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     男はだれも夢の船乗り
     いつか出会う優しき瞳信じ
     どこへだって行けた僕だった

     君を愛したとき
     忘れかけた翼がもう一度
     夢の空飛ぶことを教えた


 イフリートが野太い声で歌っている
 アラストルはバナナを耳に詰めて耐えている
 チェスの賭けに負けた、これはペナルティである

 スパーダと石舟斎は艦橋で進路計を調べていた
 「さっぱりわからん」と石舟斎は懐からサジを取り出すと放り投げた

 幻魔の潜水帆船が潜航を始めて早くも三日が経過していた。

 「一匹くらい生かしとけばよかったな」とスパーダ。
 この船を乗っ取るとき、イフリートとアラストルの手綱を緩めたのがまずかった。

 この悪魔二人は船内を嵐のように駆け巡ると、
内部で働いていた下級幻魔を皆殺しにしてしまったのだ。

 「んにゃ」と眠そうな声で石舟斎が答える
「生かしといてもムダだったな。
あの手の幻魔に知性はない。
闘争本能しか与えられていないんだ。
たといアンタが相手の脳味噌の中身を読めるとしても、
まともな答えは期待できんだろうさ」

 幻魔の生態に詳しい鬼武者の言っていることだ。
おそらくそうなのだろう。

 スパーダはモノクルをいじりながら、あらためて船内を見回す。
 じっとりと粘液で濡れた肉質の構造材。
どこにも窓の無いこの船内は、巨大な生き物の胎内に紛れ込んだように息が詰まる。

 「海底神殿とやらは、もともと鬼のこさえたもんだと聞いたが、貴公は何ぞ存知おるかや」とスパーダが問うと

 「存じませんな。
拙者が自らの出自の秘密を知ったのは十余年前、
それまでは、普通に人間として暮らしておったのだ」
石舟斎は丸い黒眼鏡を鼻先までずらして答えた。

 「だが、おれの勘じゃあ、ここは相当深い」
 「そんなこたあ、わざわざ言われんでもわかっとるわ」スパーダが裏拳をはたきこもうとした時、
船が揺れた。

 「ん?上昇しとるのか」
石舟斎が腰を浮かした。

 滝のように派手な水音が響いた。

 「あれは?」
 「空気のあるところに出たようだな」

 「ボッス、着いたようですぜ」とイフリートが艦橋に飛び込んできた。

 甲板に出ると、マストの上でアラストルが小手をかざしている。
 四方は壁に囲まれ、意味不明の文字で装飾された天井が蓋をしている。
 船が何艘も入る巨大な船渠(ドック)。

 しばらく無言で周囲を眺め回していた石舟斎は
「なんとなく和む」ぼつりと呟いた。
一歩一歩確かめるように、石造りの床を踏みしめる。

 人間たちが竜宮城あるいは鬼が島と呼んでいた「鬼族」の隠里。

 深海に眠る鬼族の聖地。
 しかし
今は幻魔の基地として使われている「海底神殿」。

 石舟斎の気持ちがなんとなく分るような気がして、
スパーダは無言で彼の後についた。

 そのときアラストルが警告の声を発した。
「お出迎えでゴンス」

 埠頭のあちこちから、幻魔のセンチネル(歩哨)どもがワラワラと空間転移して現れた。

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 キャプテン・スパーダ予告編 ( No.34 ) 
日時: 2004/10/25 12:10
名前: 明智サマー之助

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キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」(仮題)
予告編その参
「パリを歩く鬼武者」ヴァージョン
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華の都「パリ」と後に賞賛されるフランスの首都も
 スパーダたちが訪れた1581年は
肥やし臭い田舎町に過ぎなかった。

フランスが、
かの三銃士やシラノ・ド・ベルジュラックが活躍する
「華咲ける騎士道」時代を迎えることになるのは 
日本で言えば徳川秀忠や家光の時代…まだまだ50年も先の話である

 「べ、便所が無いのか、この国は」
石舟斎が大いに呆れている。

 街の隅々を濡らしているのは、人々が窓から放り出した「オマルの内容物」。
 石舟斎は爪先立ってひょこひょこ汚物を避けながら歩く。

 「かなわん!俺は神経衰弱になりそうだ」
 日本人、とくに王朝文化風の教養人でもある柳生石舟斎は、
もともと「いくさびと」であるからアウトドア・ライフならばいくらでも平気でこなせるのであるが…
こういうのは、ちょっと…

 「通常の生活の中で風呂も便所も無いなんて、この国は何たる蛮地か」
 なるほどたしかに南蛮と呼ばれるわけである

 人間に変装しているときのスパーダは、
フィレンツ貴族として文化の進んだイタリアを拠点に活動しているから、
これも同様に「風呂、便所」を騒ぎ立てる石舟斎の気持ちを理解する。

 理解して、無情にも石舟斎へトドメを刺す。
「念のため言って置くが、用を足した後、始末する落とし紙もないぞ」
 石舟斎は目を丸くして
「出しっぱなしか?こやつらは」と街行く人々を指差した。

 「藁を使え、藁を」
スパーダは無慈悲に笑いながら言った。悪魔である。
悪魔なのだ。

 「ケツに刺さりそうだな」
情けない顔をして石舟斎は
「こうと知ってりゃ、土佐紙を山ほど担いできたんだが」
 「この国のパンタグリエルという貴族は、尻の始末をする道具に凝って、
鳥のヒナやら猫の子など、さまざま験したらしい」
 「鳥のヒナ?生きたままか」
 「ああ、動いているやつをむんずと掴んで、お験しあそばされたらしい」
 「…バカだろそいつ」
 「バカだとは思うが、やつの結論では
生後三ヶ月未満のアンゴラウサギの子供がもっとも具合が好いらしい」
 「まさにケツ論」と石舟斎はオヤジギャグをとばす。
勘弁してね。オヤジだもん。

 「それ以上成長すると、拭いている最中にツメで引っ掻かれるから、
危険なので止めたほうがよろしい、とのことだ」
 「だれもウサギでケツなんか拭かねえよ」

 華の都パリと称され、
文化芸術の中心地として繁栄したフランス国第一の都市は、
実に200年後、
大革命でマリーアントワネットだのオスカル隊長だのが
「ベル薔薇」している時代にいたってもまだトイレが無かった。

 垂れ流し200年の芳しき都、パリ。

 石舟斎はシュウ酸ガラスの黒眼鏡を鼻の頭にずらして
「人間てのは、つまんねえことで郷愁(さとごころ)がついちまうもんだ」
と呟いた。

 そうして従者に水汲みの重労働を日課とさせるのである。
 もちろん、朝夕の風呂の用であった。

 小国とはいえお殿様の端くれである石舟斎は、ことに朝湯が大好きであった。
 庄内節のオハラショウスケさんなら身上(しんしょう)潰して無一文になっているところである。

 汗だくとなって井戸と盥を往復する従者~フランス青年アンリ君の受難は続く。

 ところで、石舟斎もアンリ君も、さらに言えばスパーダですら知らなかったことだが…
その井戸水は
市が生み出す排水をたっぷりと含んだ品質劣等の地下水であった。

 鼻をしかめ湯浴みした後、きつい臭いの香水を振り掛けるのが習慣となった頃には、
繊細な感覚を誇る日本人石舟斎もすっかり嗅覚味覚がバカになっていたが…
それはもう少し先のこと

 バカな日々を送りながらも、鬼武者は早くモンサンミシェルに出発したい。

「少し待ってくれ」とスパーダが望む。

スパーダたちは狩り立てるべき一人の魔女の消息を追っていた。
魔女の名はカトリーヌ=ド=メディシス
今から10年前、聖バルテルミーの祭りの日に、
パリで1万に及ぶプロテスタントに死をもたらしたのも彼女の仕業だった。

幼い国王の摂政としてルーブル王宮に君臨しているはずであったが…
人前に姿を見せなくなって久しいとのこと。

「行きがけの駄賃に魔女の皺首刎ねてしまおう」
とスパーダが考えたのも道理だが、
さすが甲羅を経た魔女はなかなか尻尾をつかませない。

ぐずぐずしているうちに春は終わった。

とりあえず季節は初夏のセーヌ川
アフリカから吹きつける乾燥した熱風を浴びて、肌へ汗塩を噴き出しながら
鬼武者はパリを歩いている

愛しき女(ひと)の面影を胸に歩くには、
やはりパリは格好の背景となる街である。

お市の方の思いつめた声が耳の底に蘇る。
泣きながら差し出した柔らかな唇の触れ心地…

「俺一人でもゆこう」石舟斎は旅立ちを決意した。
思い立つと後の行動が素早い「いくさびと」。

従者のアンリ君に代筆させて置手紙を残すと、早々に宿を引き払った。

災難なのはアンリ君である。

船の手配から何から一切合財を、この奇妙な東洋人のために処理しながら、
「悪魔どもに見込まれた」不遇を深く嘆き噛み締めていた。

しかし彼は知らない。
どん底」だと思っていたアンリ君の境遇はまだまだ「上げ底」で、
不幸の「底には底があり」、さらなる災難が彼を待ち受けていることを…

船の舳先に颯爽と風を受けて仁王立ちする石舟斎の後姿を、
涙ぐんだ恨みがましい瞳で見つめながら、
アンリ君はふと、
「ここで背中を一押しすれば解放されるな」と思った。

石舟斎はくるりと振り返ると、
「今、何か余計なことを考えただろ」
虎のように薄光りする眼でくすくす笑う。

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 Re: 「Captain スパーダ」予告編 ( No.35 ) 
日時: 2004/07/27 17:25
名前: 明智サマー之助

 

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キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」(仮題)
予告編その四
「ギュルドストン教授の実験室」ヴァージョン
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 死者すらも蘇らせると評判の錬金術師は、
摂政カトリーヌ=ド=メディシスの脈を取りながら
「美しい血の流れが、毛細血管を潤しながら、私の官能を刺激する」
などと歌うように呟いている。

 髑髏のごとき肉の薄い貌に似合わず、
ギュルドストン教授の細長い指はオルガン奏者のように繊細でエロティックですらあった。

 「あなたの小さな心臓の鼓動が私の脳に囁くものは何事ぞ」

 カトリーヌの貌によぎる嫌悪と快楽の表情を観察しながら、診察を楽しんでいる。

 年老いた醜女。
 これがフランス国を恐怖で支配する独裁者の客観的な姿だ。

 ギュルドストン教授は愉快の情動を禁じえない。

 「サルどもはそれぞれのやり方で思考の膠着を起こしている」

 この自らを敬虔なカトリックと信じて疑わぬ老女は、
信仰への情熱の量をそのままに「魔界の傀儡」と化していた。

 「魔界」…なんというアナクロニズム

 生命の神秘を理性によって探求することも知らず、
「魔力」だの「念力」だの原始的な感応力で現実を変容せしめようとする愚かな意志。

 次元を異にした形持たぬ神々の階層から力を得て、地上を蹂躙しようと願う愚者の夢。
 
 「マダム、あなたの心臓は後1年で停止いたしますぞ」
モノクルを光らせてギュルドストン教授は宣告した。
 
 老女は小さな悲鳴を飲み込む。
そして毅然とした態度で
「無礼であろう教授。
たとい旦夕迫った重篤患者であろうとも、
むきつけに余命を宣告するものではない」やせた肩を張った。

 教授は貴人の叱責もいっかな気に留めず面白そうに笑いながら
「私の提案をお聞き届け願いたい」しゃあしゃあと言った。

 「なんぞ」
 「あなたの体をわが研究に捧げていただきたい」
 「なんと」
 「どうせ余命幾許も無い身の上だ。
いまさら惜しむような肉体でもあるまい」
 これを聞いてカトリーヌは怒りのあまり失語状態に陥った。

 「私はあなたの脳髄に興味がある。
訓練を積んだわけでもない普通の人間の脳髄が、
どうして魔界との直接リンクに耐えることが出来るのか。
通常ならば発狂している。
いや、既に狂っているのかも知れんが、
あなたの存在は非常に興味深い研究対象だ。
ぜひとも、あなたの脳の仕組みを解明したい」

 「わらわを愚弄するか!」カトリーヌは絶叫した。
 教授は、にやにや笑いを納めない。

 「カトリックを、正法を守るため、
身を粉にして神のご意志に忠実に働いたわらわを、
悪魔憑きと申すか!」

 「同胞1万人も虐殺して、いまさら聖人気取りとは呆れる」
 さすがの教授も笑いを消した。

 空間が「ぎゅっ」と歪む気配。
 どこからか不気味な笑い声が聞こえる。
「うひょひょひょひょ」
 
 「どうやら、あなたの眷属が迎えに来たようだ」
宙を睨んで教授は呟いた。
 「なにを申すか、このエセ学者め。
異端審問にかけた後、火焙りにしてくれるぞ」
 両手を振り回して老女は叫ぶ。

 「あなたの心の闇にリンクした回路から、
次元の壁を超えて魔物がこの世界に転移して来た。
魔界はこういうやり方で、地上を望んでいるのでしょうな。
よっく御覧なさい、御自分が呼び出した悪魔の姿を」
 老女に背を向けると、教授は杖を手にする。
 教授の向こうに、四つん這いで跳ね回っている影が見えた。

 背中から五本目の腕を生やした奇怪な生き物は笑っていた。

 顔面は髑髏、体はトカゲの出来損ない。
 腹部は爛れ、腐汁すら滴たらせている。

 「なんという下種な姿か」
教授は吐き捨てるように言うと杖を一閃した。
 壁に飾られていた無人の甲冑が、ガシャリと動き始める。
 長大な両刃の剣を両手で振り上げると、青白い炎を剣先から放った。

 トカゲの一頭はその炎を浴びてひっくり返ったが、
その背後にいたやつが甲冑に襲い掛かった。
 甲冑は大きな横振りで、そのトカゲが空中にあるうちに胴を薙ぎ払った。
 そのまま残る一頭に向かい正面から剣を叩きつける。
 意外に素早い動作で斬撃を交わすと、
トカゲは背中の第五肢で甲冑の頭を鷲づかみにする。
 甲冑はその手を斬り払うと、
剣を逆手にトカゲの背中を突き刺し地面に縫いとめた。

 「見事だ、わが息子よ」と賞賛の声を上げた教授の口が強張った。

 トカゲの死骸は、
にわかに沸騰したように腐臭の蒸気を発しながら肉を飛び散らせ始めた。
 その飛沫を受けた甲冑は、強酸を浴びたようにボロボロに崩れる。

 「なるほど」
 しばらく惚けたように口を開きっぱなしだった教授は、
一言呟くと嬉しそうに笑った。
 「体自体が毒で、その死後も敵にダメージを与えるか…。
この発想は、私の造魔開発にはなかったコンセプトだ。実に面白い」
とカトリーヌを振り返る。
 老女は悲鳴を上げることも忘れ、凍り付いている。

 「ただ惜しむらくは、肉自体の毒性が、
個体の攻撃力を低下させていることだな。
 せめて、定期的に毒を排出させる仕組みに改造すれば、
飛躍的に能力の高い魔物となるだろう」

 教授は老女に歩み寄る。

 「どうかね、魔物の女王よ、私にそれをやらせてはくれぬか」

 「わ、わらわに、どうせよと、申すのじゃ」
老女は水気の無い口腔をようやく開いた。

 「あなたに命を与えよう。
若さと強靭な肉体、望むならばあなた方の基準に沿った美しさもだ」
教授は不気味に優しく語りかけた。

 「その代わり、私にチャンスを与えるのだ。
魔界の生き物、魔界との連絡の仕組み、次元を超える秘密を授けるのだ。
そなたの肉体を研究することで、私はその知見を得る」

 「教授、そなたは何者じゃ」

 「わたしは史上最高の科学者。
命の秘密を解き明かし、命を創造するもの。
記憶せよわが名を、称えよGuildensternの栄光を」

 ギュルドストン教授~発音を変えればギルデンスタン。
幻魔界最高の科学者にして、数多のクリーチャーどもの生みの親。

 老女はしがみついた。
 悪魔よりもさらに性質の悪い幻魔のマッドサイエンティストに。

 「お願いじゃ教授、わらわに命をたもれ」


 その数日後、
一人の美しい貴婦人が六頭立ての馬車で静かにパリを離れた。
 同行するは痩身を黒衣に包んだ医師のみ。
彼は死者すらも蘇らせると評判の錬金術師であった。

 馬車は葬儀車のごとく粛々と街道を進む。
 行く先はモンサンミシェル

 実に1580年~スパーダたちが日本を訪れる一年前の話であった。


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 Re: 「Captain スパーダ」 ( No.36 ) 
日時: 2004/07/29 18:52
名前: 明智サマー之助


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「そろそろ始めんがかよ、予告編は見飽きたぜよ」と坂本竜馬が夢枕に立った。
なぜか猫耳をつけて肉球グローブまで嵌めている。

「竜馬先生、なんというお姿です!」乃公(オレ)は叫んだ
「お?似おうちょろ~が」
竜馬はその場で招き猫のマネをした。

どうも京極夏彦の新作を読んだせいらしい…今朝の夢見が悪かったのは。
うちの石舟斎の性格も
「工藤ちゃん」というより「榎木津さん」に近づいてきている。

と、言う諸事雑事を乗り越え本編始動!
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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.37 ) 
日時: 2004/07/29 18:55
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 ノンマンディのモンサンミシェルまでパリから約300キロ、日本で言えば東京-名古屋間。
新幹線なら2時間だが、フランスにJR東海は無いのでスパーダたちは仕方なく馬車を転がす。

 馬車の名は「彗星号」。4頭立てに見えるがその実態は二匹のドラゴンを偽装させたものである。
 御者台では迅雷卿アラストルが鞭を振るっている。

 馬車の中では火焔卿イフリートが望遠鏡を握って高いびき。

 伝説の魔剣士スパーダは開いた地図の上に赤筆を加えながら、例によって考え込んでいる。

 古代の翼竜のような怪鳥が目撃された地点を線で結んでいくと、
モンサンミシェルを中心に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

 ふざけた話だが、【幻魔】と称する魔族は、スパーダたち魔界の貴族に対する防御線を張っていた。
 下手にラインを突破すれば、魔力の容量が目減りした状態で敵に当たらざるを得ない。

 スパーダは結界を無傷で突破する方法を探るため、
六芒星結界の一角に位置する漁村イリア村を訪れていた。

 「マスター、来ましたぜ」と御者台の迅雷卿が喚く
「お出迎えが大群でご到着でさあ」

 「やっきやっき焼き鳥やっきやき」
むくりと起き出した火焔卿は寝とぼけた唄を歌う。

 スパーダは前方の空を埋め尽くした怪鳥の群れに鋭い視線を注いだ。

 「突破しますか?車を降りて皆殺しにしますか」迅雷卿が指示を仰ぐ。
 「降りて、焼き鳥が筋だろう」と火焔卿。
 「どういう筋だ、そりゃ」迅雷卿が怒鳴る。

 「人が襲われている」とスパーダは指差した。
 毛も羽も無い【幻魔鳥】の大群は、スパーダたちを狙って現れたものではないらしい。
 叢雲のごとき怪鳥の渦の下に、のた打ち回る白い人影が見えた。

 「了解!あそこまで飛ばしましょう」
迅雷卿が鞭を振り上げようとすると
 「待て!二手に分かれよう」とスパーダ。
 「我輩の出番ですかな」火焔卿が髭をひねりながら身を乗り出した。

 火焔卿を下ろした馬車はその名の通り彗星のごとく現場に急行した。
 御者台によじ登ったスパーダは、アルケビュース銃の火蓋を切る。
 
 それを見送りながら火焔卿は、草を蹴って足場を慣らすとおもむろにデビルトリガーを発動した。

 襲われているのは若い婦人と小さな子供の二人連れ。
 怪鳥は子供をかばう婦人の背に乗ると嘴を振りたてた。
 蹴爪を立てられた背中の着衣が裂け、血が滲む、そこへ嘴を打ち込もうとする刹那、アルケビュース銃の火筒が霊気をまとって吼える。
 火薬の爆ぜる音よりも雷鳴に近い銃声。
 スパーダの魔力がしこたま注ぎ込まれた鉛弾は、水風船を破裂させたように幻魔の肉体を飛散させた。

 迅雷卿は鞭を振り回しながら喚き声を上げる。
 電撃の鞭が一閃するたび、旋舞する怪鳥を肉塊に変えた。

 「こっちへ来い」スパーダが二人に呼びかけたとき、
上空を巨大な火球がよぎった。
 巨人が雲を掻き分けたように、怪鳥の群れが覆っていた空が霽れた。

 火球は二発三発と続いた。

 「おお、神のご加護じゃ」とスパーダ、
目を丸くしている二人に向かって白々しく嘯いた。

 けたたましく啼き騒ぎながら怪鳥の残党は北へ去っていく。

 「ほくほく焼き鳥、我輩もホクホク」
調子っぱずれな唄を歌いながら、火焔卿がこんがり焼きあがった鳥の死骸を拾い集めている。

 「食うのか?それ」迅雷卿が片眉を吊り上げた。
 「ほれ、貴公も手伝わんかよ」火焔卿は上機嫌で促した。

 そのやりとりを背中で聞きながらスパーダはあらためて二人に声をかける。
「私はキャプテン・スパーダ。外国から参った旅行者です」

 「旅行者?まさかモンサンミシェルへ御巡礼では」
若い婦人が眉をひそめた。
 「さよう」
 「いけません、あそこは魔物の巣窟になっています」
と叫ぶように言って、居住まいをただし
「私はイリア村モガールの女房です。息子を助けて下すってありがとうございました」
礼を述べた。
 漁師の女房にしては随分と線の細い母親である。
息子は4~5歳というところか。足元がまだおぼつかない。
 外見アラブ人の火焔卿を珍しそうに見つめ、よちよちと近づいた。

 「おじちゃん、トルコ人?」火焔卿のゆったりしたズボンを引っ張る。
 「おじさんはトルコ人じゃ無いのだよお」
火焔卿はニコニコしながら子供を肩に乗せる。

 (また、悪い癖が始まった)と言わんばかりに迅雷卿が大げさに顔を覆って天を仰ぐ。

 「じゃ、何人?」
 「あててごらん」
 「エジプト人?」
 「おじさんはエジプト人じゃないのだよお」

 子供を「きゃっきゃ、きゃっきゃ」言わせている火焔卿に母親が駆け寄って
「これ、ジャン。失礼でしょう。ちゃんとお礼を申しなさい」
 躾の様子から、どうやらただの漁師の嫁ではないらしい。
 徒歩で帰るのは危険だと勧めて馬車に乗せ、事情を伺うと、イリア村に派遣された牧師の嫁だという。
 つまりプロテスタントだ。
 サンマロからイリアにかけては新教徒が多いとのこと。
 その先にあるのがモンサンミシェルカトリックの巡礼地だからあまり良い感情は抱いていないだろうが、それにしても
 「魔物の巣窟」は穏やかでない。

 「モンサンミシェルになんぞ障りでも?」と訊くと、
最近あそこから魔物が飛んできては村人を攫っていくという。

 「なんだかなあ、人目を避けてこそこそ基地をこさえているのかと思ったら、俺たちが留守にしている間に随分派手な暴れ方してるみたいですね、あのクズども」
 迅雷卿があきれた声を出す。

 「あの魔物をご存知なのですか」母親がいぶかしげな目でスパーダに問う。
 「そういう魔物を狩るのが私の仕事です」

 「悪魔祓い師!?」
 「いえ悪魔狩人とお呼びください」と言ってスパーダ
「私どもは聖職者ではありませんので」微笑みかけた。

 悩殺スパーダきらきら光線に射抜かれて母親は年甲斐もなく頬を赤らめた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.38 ) 
日時: 2004/10/25 12:12
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 「まるでサザエの化けモンだな」とムッシュ・ヤギューは言った。
船の舳先に仁王立ちになって、口には細いパイプを銜えている。
 干潟の上ににょっきりと聳え立つモンサンミシェルを見た第一感想がコレだ。

 「サザエたあ、何です」
 「知らんのか、ほれ、海に棲んどる巻貝で、つのつのが生えとるやつがおるじゃろうが」
持ち歩いている石版に絵を描いて見せた。
 「つのつの?ウニですか?」と乃公(オレ)も絵を描いて応じると、
ムッシュ・ヤギューは何故か不機嫌な様子で
「もう、おまえには説明してやらん」とそっぽを向いた。

 アフリカ人のように癖の強いもじゃもじゃの頭髪を無造作に束ね、
黒い丸眼鏡をかけた姿は、どこから見ても怪しげな異教徒である。
 これからカトリックの大寺院に乗り込もうというのに、
少しは穏やかな格好が出来ないものかと進言したら思いっきりバカにされた。

 「これから敵の本山に乗り込むのに、
わしが何者かはっきり分るようにせんでどうする。
何者が挑戦してきたか一目瞭然にしとかんと相手が迷うじゃろうが」

 どういう理屈だ。
 これでも悪魔である。

 普通、悪魔というのは現世では人間の下僕として働き、
その死後、立場を逆転して人間をこき使うものと聞いているが、
乃公(オレ)の場合は何故か、この悪魔に金で雇われて、生き身にして下僕と化している。
 この悪魔は東洋から来たというから、あちらでは契約事情が違うのかもしれないが、
この有り様を親が見たら確実に泣かれる。

 「おー、にゃんこだ」
 浅瀬の波を蹴立てて上陸した第一声がこれだ。
 確かに埠頭で猫が魚をかじっている。
 しかし、フランス有数の名所古跡モンサンミシェルまで来て、
なにも最初に見たものが猫だからって「にゃんこ」は無いだろう。
 反応がまるっきりバカである。

 北口の門は海に向かって開かれている。

 「出迎えご苦労」とムッシュ・ヤギューは猫に挨拶して、
のしのしと門に向かう。
 人の気配はあるが、人影は見えない。
 息を殺し家々にこもっている人の視線だけが飛んでくる。

 「ムッシュ、もう少し慎重に…」と言いかけたオレの足先に矢が立った。
短い矢柄~弩の矢だ。

 悲鳴を上げる乃公をじろりと見て、ムッシュ・ヤギューは仁王立ち。
面白そうに周りを見回しはじめた。

 槍や弩、銃を手にした町民たちが遠巻きに陣を張っている。

 「遠来の客に珍しいもてなし方をするものだな…と言ってやれ」
ムッシュ・ヤギューは乃公に命じた。

 言われたとおりに通訳したと同時に銃声が響く。
 乃公は飛び上がってムッシュの背後に身を隠した。

 町人が叫んだ
 「人ならば下がれ、この町に入ってきてはいかん。悪魔ならば成敗してくれる」

 「て、おっしゃってます」
 「おれは悪魔を退治しに来た…と言ってやれ」
 「通じませんよ」
 「通じさせるのがオマエの仕事だ」ケツを蹴られた。

 乃公は観念した。
ここで説得交渉にしくじれば、この東洋の悪魔は居並ぶものすべて皆殺しにしてしまうかもしれない。
やりかねない。
いや、絶対やる。

 乃公は銃の先に白旗をくくりつけて振った。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.39 ) 
日時: 2004/10/25 12:13
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 モガール和尚は、プロテスタント創始者マルティン・ルターに似た陽気な坊主で、
善く飲みかつ善く食べた。
 そして善く喋る。
 脳味噌が下痢を起こしたようにひっきりなしに喋り続けた。
 口数が少ないとはいえない迅雷卿と火焔卿の両名も思わずうんざりした貌を見合わせる。
 キャプテン・スパーダは愛想良く微笑みながら相槌を打っている。

 不気味だ

 迅雷卿と火焔卿は再び貌を見合わせる。
 スパーダの機嫌を額面通りに受け取るのは危険だ。
 
 「おめえらが相手しないからオレがあのおしゃべりに付き合わされた」
などと後で八つ当たりしてくる可能性は大だ。

 迅雷卿は「馬の世話をしてくる」と理由をつけて退席し、その背を恨めしげに見送った火焔卿は、子供が裾にまとわりついていることを幸いとして
「坊よ、オジさんが遊んであげよう」などとワザとらしくお道化て戸外へ出て行った。

 「?」とスパーダは、その二人の様子を横目に認めていぶかしんだものの、直ぐモガール和尚の話に注意を戻す。
 本当に面白がって話を聞いていたのだ。
 どうやら二名の心配は杞憂だったらしい。

 「モンサンミシェルには魔女がおる」とモガール和尚の話は佳境に入った。
 
 「化け物どもを使役して、人々を攫う魔女の目的とは何ぞや。
 奇跡的に魔女の手から脱してきたものの言うところによれば、魔女はモンサンミシェル修道院の地下で、人間を働かせておるらしい。
 働けなくなったものは、たちどころに化け物どもの餌にされてしまう。
 では女子供など、労働力として相応しくないものはどうするか、
 これは最初から食料用として攫っていくものらしい。
 いやいや、この度は女房子供を救って下すって、拙僧はいたく感謝するものである。
 あなた方が通りがからねば、あの二人とも、今頃魔女の食膳に上っておるところでしたワイ」

 モガールの女房は厭な顔をした。
 本人を前にして、もう少し選ぶ言葉もあるだろうに、これが新教坊主特有の生臭味というやつなのだろうか。
 いささか露悪的に無神経なふるまいではある。

 カトリックの坊主なら、実態はデタラメでも見た目だけは清貧そうな振りをする。

 などとスパーダが感想していると、モガール和尚は妙なことを口走った。

 「まったくあの化け物どもの新教徒好みにも困ったもんですわい」

 「どういう意味です?」

 「あやつらどういうわけだか新教徒ばかりを選んで襲ってくるのです。この村なぞ、さしずめ奴等の狩場ですな」

 「御坊、心当たりはございますか」

 「さて、人の心には聡いのが坊主の慣いではありますが、こと化け物の気持ちとなると拙僧には見当もつきかねまするな」
モガール和尚はそう言うとワインをぐびりとあけて、さらに気になることを言った。

 「拙僧は、10年前パリで聖バルテルミの惨劇を体験して以来、信心に目覚め宗門に加わった未熟者ではありますが、この村周辺を荒らしまわる化け物を見るたび思うのです。
 まるでカトリーヌの手下のようだと」

 「あのイタリア女のことですか」

 「さよう、正しい信仰を守るためと称して、一万人に及ぶ無辜の民を虐殺した悪魔のような女子です。
 もしアレが悪魔を配下にすれば、おそらくはこのような仕打ちをいたすでしょう」とモガール和尚は言って慌てて打ち消した。
 「おっと失礼、拙僧口が過ぎました。
 お忘れくだされ。いかに宗門は異なると言えども、教えを奉じる身の上で、あらぬことを口走りました。
 いかに悪行をなしたるものであろうとも、神は救うて下さる。厭じゃと言うても救うてくださる。
 それが主の慈悲の御心でござる。
 あのような女子であろうとも、ハライソではともに主の僕として教えを学ぶ御同行となるのでござる。
 それを悪魔の手先などと、みだりに賤しめてはなりますまい」

 「しかし、御坊は先ほどモンサンミシェルには魔女がいるとおっしゃいましたが」

 「あれは、本物の魔女じゃ。化け物じゃ」とモガール和尚は吐き捨てる。

 「ごらんになりましたか」

 「見た、思い出しとうはない」

 「何をしておりましたか、教えていただけませんか」

 「たって、断る」

 「悪魔を狩るのが私の仕事です」

 「それでも厭じゃ」

 「御坊、奇跡的に生き延びた男とはあなたのことですね」

 「知らん」

 「そしてあなたが生き延びたにはわけがある」

 「何のわけも無い」

 「そろそろ楽になりませんか御坊」

 「何を言いがかりをつける」

 「あなたは、見逃されたのだ。何かを条件に」

 「わしは何も取引などしていない」

 「やはり居られたのですな、モンサンミシェルに」

 「知らん」

 「そして、何かを託された」

 「キサマ、ココロを読むか!?」

 「あなた自身の肉体に、何かが仕掛けられた。あなた以外にも何人かの男がそうやって、わざと解放された」

 「きさま人間ではないな」

 「あわせて六人。その男たちは六方に散った」

 「下がれ!悪魔め」

 「それぞれ、流れ着いた町や村で六人の男たちが生活を始める。そして、悪魔どもの人間狩りは始まった」

 「わしらと悪魔は関係ない。偶然じゃ偶然」

 「わしら?あなた以外の男たちはどこに行ったのです?」

 「知らん」

 「そろそろ認めましょうよ御坊。私はあなたの苦悩を解消して差し上げる」

 「下がれ!下がらんか!悪魔」

 「私の名前はスパーダ。悪魔を狩るのが私の仕事だ」

 スパーダは霊体の指を伸ばすと、モガール和尚の頭蓋にずぶと沈めた。

 電撃に撃たれたように起立した和尚は、白目を剥いて泡を吹く。

 脳髄の中、視床下部を二重に取り囲む白い魔法陣が見えた。

 「道理で目の輝きに、妙な色が見えたわけだ」

 スパーダはゆっくりと魔法陣を解きほぐす。
知恵の輪を解く手つきに似ていなくもない。

 だしぬけに魔法陣は弾けた。

 モガール和尚の背後に展開していた圧力が、水の退くように胡散し、
スパーダは自分の魔力ゲージが回復するのを実感した。

 六つの結界ポイントの一角が崩れた。

 悪魔はモガール和尚の脳を発信装置として利用していたのだ。

 本人は気づかぬうちに、人々を狩場に封じ込める鉄条網の役を勤めさせられていたわけだ。

 「なんという奸知」
スパーダは和尚の体をゆっくりと椅子に腰掛けさせると、気の毒な男の肩に膝掛けを置いた。
少し心臓に負担が掛かって息が荒いが、気を失っているだけだ。

 振り返ると、モガールの女房が包丁を手に身構えている。

 「奥さんすべては終わりました。
もうあなたのご主人が悪魔に悩まされることはありません」

 「出て行ってください」

 「出て行きますよ、ここでの私の仕事は終わった」

 スパーダは冷たく笑うと部屋を出た。
 悪魔にかかわりが無くなれば、もう興味は無い。
 いつもの慇懃無礼で冷酷な貌に戻っていた。

 表では浜辺で火焔卿が凧を揚げている。
「風も無いのに妙だな」と善く見ると迅雷卿の手足に糸をつけて飛ばしているのだ。
 子供は大喜びだ。

 「アホウどもが、やり過ぎだ」
スパーダは舌打ちすると、仲間二人に向けのしのしと歩み寄っていく。
その背中には赤黒いオーラが滲み出していた。


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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.40 ) 
日時: 2004/10/25 12:14
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 モンサンミシェルの干潟に満ちる潮は人の足よりも早い。
 潮時に波打ち際が迫ってくるのを、
小手にかざしてのんびり観察している間に、
気がつけば水に取り囲まれている。

 水を含んだ干潟はあちこち底なしの泥沼と化す。
 ひとたび嵌れば大の成人でも自力で脱け出すことは難しい。
 年に何人も行方知れずとなり、アサリやハマグリの滋養となっている。

 その水が今、石舟斎の足元を洗っている。

 ふらふらと定まらぬ腰つきで白旗掲げた従者のアンリ君が、
足を泥に取られながらモンサンミシェルの町の衆に近づいていく。

 見晴らしの良いこの干潟に腕組みして仁王立ちの石舟斎、
ふと妙な気配に 黒眼鏡の奥の瞳を光らせた。
 右手の鬼の印が疼いている。

 「リバイアサン
 「ベヘモス」
などと町の衆がにわかに喚きたてた。

 アンリ君の右手の泥が小山のように盛り上がると、
金色の剛毛に覆われた巨獣が挑戦の雄叫びを天に放った。

 アフリカ象くらいの胴体に、熊のような頭が二つ。
ただし、目は一つづつ左右の頭に振り分けられている。
 肩や関節には金属製のプロテクターを装着しており、
何者かの意志によって飼われている戦闘獣であることは知れた。

 「走れアンリ」石舟斎は怒鳴ると、巨獣に向かって剣を抜き構えた。

 闘牛や猪が突進する前に地面を掻くように巨獣は泥を掻き散らす。
二つの首で石舟斎とアンリを見比べると、石舟斎に向かって突進した。

 石舟斎は闘牛士のように体をかわす。
 泥の中でも足捌きが確かなのは、さすが柳生新陰流の開祖である。
 金春流能の舞楽師と技術交流したと噂の体術は、
舞踊のような優雅さで巨獣の動きを翻弄する。

 まさに焦れたと言わんばかりの仕草で口を開けた巨獣は、
右の首から炎を、左の首から電撃を放出した。

 炎を避けた石舟斎が、電撃に捕まる。
 うめき声が、町の衆にも届いた。
 普通の人間ならば即死である。
 
 泥だらけで転がり回っていた石舟斎は、
三池典太を舞雷刀に変化させた。

 巨獣が泥を撥ね散らして石舟斎に迫る。
 ゆらりと立ち上がった石舟斎は、鬼力を溜めた舞雷刀を正眼に構える。
 剣に炎が宿った様に、紫色のオーラが光量を増した。

 その光に一瞬ひるんだ巨獣は、
突進を停止すると首を振りたてて払った。

 敵の攻撃が身に届く刹那、石舟斎は刃を送り込んだ。

 【一閃】が発動した。

 【鬼武者】の必殺技である。
 いかなる強大な敵であろうとも、
この【一閃】の連鎖発動を食らってはたちどころに体力を削られてしまう。

 巨獣は断末魔の絶叫を発し、しかし驚くべきことに、耐えた。

 哭き喚きながら、泥の海に潜り逃げる。

 石舟斎はしばらくそれを見送って、突然ガクリと膝を突いた。

 「ムッシュ」従者が心配顔で駆け寄る。
 「大丈夫だ」と石舟斎、化け物が残した魂を素早く回収した。

 町の衆が、おずおずと近づいてくるのが見える。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.41 ) 
日時: 2004/10/25 12:15
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 結界が破れたイリア村の周辺で、スパーダたちは悪魔狩りに興じてオーブの回収に勤める。
 「腹が減っては戦はできぬ」の何とやらで、食欲旺盛な魔人どもは、魑魅魍魎はもとより食べつけぬ幻魔のオーブにいたるまで貪欲に吸収した。
 飽くまで悪魔狩りに興じた後で、
黒白四頭の悍馬に牽かれた馬車「彗星号」の周りに簡易食卓を展げ、
魔人たちは幻魔鳥をつまみに苦蓬酒を酌み交わした。

 「ほかの魔物から見れば、俺たちの有り様はおぞましい共食いの化け物だろうな」
魔人達は、もう何度も繰り返した議論を蒸し返している。
 
 「食物連鎖の原理から言えば」と火焔卿イフリートは鳥腿を骨ごと噛み砕きながら
「人間ごときの微弱なオーブを吸収して満足できるほど我輩の胃袋は安くない」

 「それは生命オーブの話だろうが」と迅雷卿アラストルは手羽先に肉をせせりながら言う
「古来、地上に這い出た悪魔が狙ったものは、宗派を問わず聖職者の魂だ。
魔力を養うのに効果的なオーブは、
微生物が酒を醸し出すように、貧弱な人間の精神活動の中から生まれることもある」

 「だが、あまりそのような例を見なくなったな」と伝説の魔剣士スパーダは鳥レバーに塩を振った
「人間が堕落すれば、魔界と現世との閾が低くなると目論んで、
数多の魔王が地上攻略にいそしんできたが、
さて、それが実現したとき
地上には捕食するに足るオーブを持った生命体が存在するのか、
こういう単純な矛盾にたいして満足できる答えをもった魔王はいないな」

 「それが1500年前ムンドゥスと袂を別った理由だったな」火焔卿は昔を思い出す。

 「飽くまで要因の一つだ」とスパーダ、
「人間の精神活動に可能性を見出した私は、
人間に混じって暮らすうち捕食せずとも巨大なオーブを採取できる方法を知った」

 「あんたが好きな【愛】とか【慈悲】とかいうやつだね」迅雷卿は皮肉に笑う。
無礼講ゆえに敬称なしで議論は進む。
「人間どもの伝説に言う『正義に目覚めた悪魔』って寝言の一節だ」

 「人間の言う正義の所在が奈辺にあるのかは知らんよ」スパーダも皮肉に笑いながら答える
「しかし、【愛】も【慈悲】も、見なくなって久しいことだ」

 「しかるがゆえに、我輩たちも共食いの悪食をせねばならぬと言うわけだ」
火焔卿はニコリともせず骨のかけらを吐き捨てた。

 「さて、そこで思うのだが」とスパーダは鳥腿をかざして言う
「この幻魔の魂を吸収してオノレの力に換えるという鬼武者のことだ」

 「石舟斎殿が何か」と迅雷卿は厭な記憶を蘇らせた。

 「君は一度、彼にオーブを食われたことがあるから、
この件について余り良い感想は抱いていないだろうが、
体験者として考えを聞かせてもらいたい」

 「何を語れと言うのかね」迅雷卿はいぶかしむ

 「我々の摂取するオーブと、彼が吸収する魂とは同じものなのだろうか」

 「かなり立ち入ったことを聞くのだね」

 「当事者としては考察せざるを得ない災難だったはずだ」

 「ふむ、確かに」と迅雷卿は視線を宙にさまよわす
「私は石舟斎殿に斬られオーブを流出した。
その後で、彼は一度吸収したオーブを私に返した。
彼は私のオーブを吸収したとき『妙な感じ』と言ったが、
私も、私自身のオーブが戻ってきたとき、
やはり『妙な感覚』を憶えた。
 オーブも魂も、同じ生命力や魔力の媒体として我々に認識されているが、
この違和感の根元は何であろうか。
 包帯だらけで寝転がっている間しげしげと考えた」

 「勿体つけるなぁ」と火焔卿が囃す。

 「結論から言えば結晶度の違いではないだろうか。
たとえば、炭水化物は生物の体内でブドウ糖に分解され全身の細胞で消費される。
鬼武者の『魂吸収システム』は、おそらく我々がオーブと呼んでいるものを、
より細かくこなれた形で摂取しているのだろう。
だから、私自身が自分の体に戻されたオーブに違和感を感じたのではないか」

 「早い話が、丸呑みするか、歯で噛み砕いて飲み込むか、そういう違いだろ」
火焔卿はあきれた貌で言った「ようはおめえは鬼武者のゲロを食ったわけだ」

 「やかましい、おまえとはもう話しせん」迅雷卿は怒鳴った

 「興味深い仮説だった」とスパーダ
「しかし、納得いかんことも若干ある」

 「何が」

 「石舟斎が君のオーブを食ったとき、
彼は『いきなりデッカイ樽のような魂が転がっているのが見えた』と言ったんだ。
これは、オーブだろう?
つまり、彼は君の生命力や魔力を、オーブの形状で認識したんだ。
君の仮説が十全なものなら、彼がオーブを見ることはありえない。
おそらく浮遊する魂の形状で認識するはずだ」

「例外と言うこともアル」

「例外かも知れんが、私がなぜこの事にこだわっているかと言うと、
悪魔を食うのと幻魔を食うのとどちらが効率が良いか、
という問題を考えていたためなのだ」

「は、はあ」と両卿は首をひねる。そんなことは考えてもみなかった。

「知っての通り、悪魔が魔界からそのままの力をもって地上に出ることは難しい。
多くの力を魔界に残したまま、地上で活動するため不本意な肉体を物質化している」

「わしらはどうなんだい」火焔卿は脂で汚れた指で自分の鼻を示す。

「おれたちは地上で活動し始めて久しい。
永年こちらで肉体と魔力を養ってきたから、
昨日今日ポッと出の悪魔に引けを取ることはあるまい。
いうなれば、これこそ俺たちが帝王クラスの悪魔とも互角に戦える秘密だ。
ヤツラと言えども、地上に出たてはフルに魔力を駆使できるわけではないからな」

「そうかぁ?」となおも火焔卿は首をひねる
「ムンドゥスも、地上では生まれたてのヨチヨチ歩きの赤ん坊だったと言うのか」

「さよう、1500年前のあの戦いは文字通り『赤子の手をひねる』ようなもんだったわけだ」
スパーダは笑う。
「それにしちゃあ、えらく手ごわい赤ん坊だったことだ」迅雷卿は苦笑する。

「オレが悪魔を狩るのを商売にし始めた理由の一つは、
下種な三下悪魔であろうとも、
地上で甲羅を経ればそれなりに強大な存在に成長すると言う懸念からだ。
ましてそれが魔王の芽ともなればなおさらだ」

「なるほど、それでアンタは畑違いの幻魔に興味を抱いたわけか」
迅雷卿は何事か納得する。

スパーダはうなづいて
「【幻魔界】には魔界と地上の結界にあたる障壁がないようだ。
ヤツラは自分たちのテリトリーから自在に生身の肉体を転移してくる。
逆に言えば、俺たちが【幻魔界】とやらに乗り込むことも可能なわけだろう」

「えらいこと考えてるなあんた」と火焔卿

「今のところ、俺たちが遭遇した幻魔は、さほど難物も無く、適度に食べごろの獲物ばかりだった」

「信長を除いてね」迅雷卿はニヤリと笑う。

「信長を除いてだ」スパーダも苦笑する。

「ということは」と火焔卿「幻魔界とやらに俺たちが乗り込んでみろ。
食いごろのオーブ抱えた獲物で溢れかえっているわけだ。
しかも、そこでつけた力をそのまま地上に持って帰ることも出来るんだ。
こりゃあ、無敵に一直線じゃないか」

「だから危険なんだ」とスパーダ

「どういうことだ」

「俺たちがこれを考え付くと言うことは、ほかの悪魔だって気づくってことだ」

「それは…とっても遺憾ことです」火焔卿は炎の混じったゲップを吐いた。

モンサンミシェルを根城にしている幻魔が、
悪魔側の陣営と何らかの交渉を持っているとすれば、
遠からず【幻魔界】に身を投ずる悪魔も出てくるはずだ。
そうなる前に、何らかの手を打っておく必要がある」

「どうするつもりです」と両卿が問う。

「さて、その方針がまとまらない」スパーダは眉根をしかめ酒をあおった。

そこへ、聞き覚えのある声が伝わってくる。
「おおーい、キャプテン・スパーダ」

「ありゃあ、あの坊さんじゃないですかい」
「はて何用だろう」
魔人達は立ち上がると背を伸ばして見た。

イリア村のモガール和尚が老いぼれ驢馬にまたがって近づいてくる。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.42 ) 
日時: 2004/08/05 18:45
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 「ジャンヌ・ダルクの再来です」と、町の衆は言った。

 モンサンミシェルの町の衆を率いて魔物と戦っている女主人は、
あの聖なるオルレアンの少女に瓜二つだと言うのだ。

 100年前の人物に容貌が似ていると言われても、
乃公(オレ)としては返す言葉も無いのだが、
せっかく町の衆が俺たちへの信頼度を高めたところへ、
ことを荒立てる気も無いから曖昧に笑っていると、
ムッシュ・ヤギューがオレの袖を引いた。

 「何です?」
 「風呂に入りたい」

 東洋から来たこの男~悪魔にとっては
ジャンヌダルクも奇跡の処女の伝説も
なんの感想の対象にもならぬらしい。

 「そんなことは無いぞ」
 「じゃあ、もっと感心したフリでも善いからしてくださいよ」
 「敬意を表するためにだなあ、身なりを整えたいと申しておる」
ムッシュは異国風のロングコートの裾を絞って
「こんなミミズみたいな泥だらけで、
高貴なご婦人の前に推参する度胸は無いぞ、俺は」

 町の衆が語るには
「マダムの予言の通りでございました、
あなた様方が此処にお出でになられたことは」


 ルナの満ちるとき
 干潟を破って二人の代理人がやって来る
 一人は神の意志を
 もう一人は悪魔の野心を代行して
 その時モンサンミシェルは再び栄光に包まれるだろう


 「なんの阿保陀羅経だ?そりゃ」
風呂上りに出された胴衣を身に着けたムッシュが首をひねる。
泥を洗い落とした東洋の装束は窓の外、夏風の中を泳いでいる。
 「予言詩ですよ」
 「どうとでも解釈できるような作文だな。
もう少し勉強したほうが善いぞ、これを書いたやつは」
 「あんた、黙ってて下さい」

 「わたしらは」と町の世話焼きさんが告げる
「あんたらが現れたとき、
神の御使いか悪魔の手先かを見極めるまで、
町には入れまいと決死隊を出したのです。
ところが、アンタは無造作にあの化け物を追い払って下さった」

 「あの化け物は、何じゃ?」とムッシュ
ビヒダスとかヒポポタマスとか喚いておったようじゃが…と訊け」

 オレが通訳すると世話焼きさんは
モンサンミシェルから南側付近の村々を扇動する魔女がおります。
そやつの飼っている使い魔があのフタ首の魔獣です」と答えた。
「わしらはマダムの指示のもと、あのような魔獣やユグノーどもと戦っているのです」

 「ユグノーって何だ?」
 「カルバン教徒、プロテスタント、教会の権威を認めない異端ですよ」
 「例のバルテルミとかで殺された門徒か」
 「ノルマンディは宗門の争いが激しいんですよ」
 「ふうん」と興味なさそうに刀の手入れを始めた。

 アラビア人の使う円月刀よりも細身で長く、
そのくせ鏡のように透き通った輝きを発する。
 鉄の質が良いのだろう。
 悪魔の持ち物にしては優しげで美しすぎる。
 じっと見ていると、引き込まれるような妖しさがある。

 乃公は目を逸らすと、世話焼きさんに重ねて訊いた。
 「マダムのお名前は何と申されるのです」

 世話焼きさんは胸を聳やかして答えた
「カトリーヌさまですよ。
あのメディシスの女と同じ名前なのが気に入らないが、
わたし等を守って戦って下さる尊い貴婦人でございます」

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.43 ) 
日時: 2004/10/25 12:18
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 「償いをしたいのじゃ」とその坊主は言った。
「真実から目をそむけておったワシの臆病を罰したいのじゃ」

 「好い心がけだ」
 キャプテン・スパーダはモノクルを光らせると坊さんに同席を許した。

 馬車の周りに車座になって、
スパーダ一味はカルバン派坊主モガール和尚の話に耳を傾けた。

 「モンサンミシェルから南の村々に現れる魔物を、
貴公らのように退治して、人々を救うておる女がいる。
 村人の多くはあの女を信用し頼りにしておるが、
わしから見ればこれも魔物の眷属じゃ。
 そう思うて、わしはあの女とは関わらず、
またわしの教区の信者にも、あの女との交わりを禁じた。

 だが、これも今にして思えば、
わしがわしの罪を直視したくないがゆえの欺瞞であった。

 だから、今こそわしは願う。
 あの女と力をあわせ、モンサンミシェルの魔女を打ち滅ぼさねばならぬのだ。
 そのためにはキャプテン・スパーダ、
貴公をあの女に合わせなければならない。
 そう思いつめて、驢馬を飛ばしてまいったのじゃ」

 「あの女とは何者です?」

 「素性は知れぬ。
いつも白銀の甲冑に身を鎧っておるので素顔を見たものもいない。
 半年ほど前ふらりとこの地方に現れ、
魔物を狩り、あるいは飼い馴らして人々に安堵を与えておる。
 村人の中には、この女に従い、モンサンミシェルの魔物どもと戦う者すら現れ、
守備隊も組織され始めた」

 「ちょっと待ったあ」迅雷卿アラストルが片手を挙げた
「今、坊さま何と言われた?」

 「何ぞ?」
 「『魔物を飼い馴らして』って言わなかったか、あんた」
 「それが何か」
 「それは大変なことじゃないか?」
 「変なことではアル」
モガール和尚は深々とうなづいた。
 「あの女には、小山ほどもある魔獣が子犬のようにじゃれ付いて、
手ずから餌などを貰っておる。奇妙な光景じゃよ」

 スパーダたちは顔を見合わせて、
「小山ほどって、ファントムですかな」
「まさかグリフォンてこたないだろ」
「でかくなった時のノーバディとか」
などと囁き交わした。
 
 和尚にくだんの魔物の形状を聞いても要領を得ない。

 「とりあえず見れば分る」と驢馬に乗って先導し始めた。

 その歩みのあまりの遅さに、馬車を牽く四頭の馬は苛立ち始めている。
 見かけは四頭の馬だが、その実態は二匹の龍が化身したものである。
 二匹の龍~ルーチェとオンブラは口角に泡を飛ばし、血走った目で前方の驢馬と太った坊主を睨んでいる。

 いまにも食いつきそうだ。

 御者は迅雷卿に代わって火焔卿イフリートが手綱を引き絞っている。

 スパーダは自作のアルケビュース銃「ソクラテスプラトン」の手入れをしながら迅雷卿に、
「愛と慈悲と正義の可能性ってヤツについて少しは考察が深まったかね」と問うた。

 迅雷卿は先行く坊主の不細工な後姿を見つめながら片頬ゆがめて
「少なくとも、正義は滑稽でもありえる、てところですかね」と答え
「滑稽な存在でも正義は行える、と言い換えたほうがいいかな」

 「いや、最初ので善いと思う」とスパーダ、
「ユーモアの無い正義は、どこか胡散臭いものだからな」

 馬車ががたりと揺れて、火焔卿が異変を告げた。

 モガール和尚の左手の草地が小山のように盛り上がると、
金色の剛毛に覆われた巨獣が挑戦の雄叫びを天に放った。

 アフリカ象くらいの胴体に、熊のような頭が二つ。
ただし、目は一つづつ左右の頭に振り分けられている。
 肩や関節には金属製のプロテクターを装着しており、
何者かの意志によって飼われている戦闘獣であることは知れた。

 「お出ましですな」と迅雷卿が車外に飛び出そうとするのを
「待て」と留めて、スパーダはゆっくりと車扉を開けた。

 驢馬から降りたか落ちたかしたらしい和尚は、
その巨獣の顎の下で何事かを喚きたてているが、
切羽詰った怯えの色は無い。
 勇気を振り絞って何事かを訴えている風情だ。

 スパーダがゆっくりと近づいていくと、かなたから鋭い叱咤の声が響いた。

 「何をしているのですか、あなたは」
 
 凛然とした女の声に、巨獣がひるんだ。

 スパーダが首をめぐらせると、草地を掻き分けて騎馬武者が現れた。
 白銀の鎧に、目庇しの深い兜。
 胸のふくらみを収めて張り出した女鎧の主は、
鋼線を織り込んだガーターベルトの脚を陽光のもとに眩しく一閃させて馬を下りた。

 「ガートルード!あなたはっ!
人を襲ってはいけないとあれほど言い聞かせておいたでしょう!」

 叱られた子犬のように拗ねて甘えた仕草で、
アフリカ象ほどの化け物が女の足元にじゃれ付いている。

 スパーダはモノクルを光らせて
「なるほど、これは奇妙な光景…」と一人で深く納得していた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.44 ) 
日時: 2004/08/08 19:05
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 「町の者を助けていただいたこと、有難く思います」
 ぴっちりした男物の胴衣に、髪を若々しく結い上げた麗人は、真っ直ぐムッシュ・ヤギューを見つめながら礼を述べた。
 ムッシュはでれでれと表情筋を緩めた貌で
「いやあ、大したことじゃありません…と言え」乃公(オレ)に命じた。

 「お国の言葉で結構ですは」マダム・カトリーヌはイタリア語で答える。

 「いやあ、お国の言葉というわけじゃないのだが、
ヨーロッパの言葉はコレしか知らんので、不調法いたす」でれでれとムッシュは答えた。

 モンサンミシェル修道院の礼拝堂で、乃公たちはマダムにお目通りしたわけだ。

 「日本より参った、大和郡(ごおり)柳生の庄領主、柳生石舟斎にござる」

 「日本?あのローマ法王に謁見した少年使節団の国ですか」

 「さよう、東の涯から参った者です」

 「おお、何と、主のご配慮は深遠なることか。
玄妙なる御使いをわらわのもとに賜らせたか」
 感動しているのか呆れているのか判別に苦しむ口調で、マダムは両手を胸の前に組み合わせた。
その仕草が子供っぽく、初々しい。

 「ええ、ワタクシがマダムのお役に立てるかどうかは知れませんが、
日本の武士は皆魔物退治の達人でございます。
 御用とあらば即参上!」などと調子の好いことをほざいているムッシュの脇腹を突付いた。

 「なんだ」
 「いいんですかい?そもそもの目的はどうなったんです?」
 「目的ぃ?」
 「あんた、女を探しに来たんじゃないのかよ」
 思わず乱暴な口調になった。

 それを咎めもせずムッシュは視線を宙にさまよわせ
「ほうじゃ、ほうじゃ」と惚けたように呟いている。

 「誰をお探しです?」とマダムが訊いた。

 「はあ、ワタクシと同じ日本から来た女子(おなご)で、名をイチと申す者」

 「イチ?」

 「ええと、こちらではそうだなプリンセス・イチとかマダム・イチとか、チッタとか…」

 「お年は?」

 「四十歳に近い大年増ですわい」

 「お美しい方なのでしょうねぇ」

 「ははは、まあ…」もじゃもじゃの頭を掻いた。
 何を照れているんだ、このオヤジは…

 「殿方をはるばる東の涯の国から魅き寄せる力をお持ちなのですから」

 「えへへへへ」
 だめ人間になっている。

 マダム・カトリーヌは傍らの黒衣の老人に目を向ける
 「存知居るかやドクトル?」

 「存知ませぬなあ」妙に金属質の声でドクトルと呼ばれた男は答えた。

 青春の華の化身のようなマダムの側に、怪しげな男が配置されている構図には、
やはり、「ジャンヌ・ダルク青髭ジル・ド・レー」を連想せざるを得ない。
 町の衆が「マダムはジャンヌ・ダルクの再来」と称し奉っているのも、
ゆえなきことではないなと感想した。

 ジル・ド・レー男爵はジャンヌとともにイギリス軍を撃退し、
武功を認められて「元帥」(!)となった。
 ジャンヌが処刑されて以降は自領に引きこもり、
錬金術に凝った挙句、数千の嬰児を誘拐、殺害した。
 天女に導かれた数年間と悪魔に魅入られた数年間の落差の激しさに、
乃公のような凡俗は戦慄せざるを得ない。

 乃公などは、悪魔の従者になってもこの通り善良で小心なアンリ君のままだ。

 神も悪魔も、人間を超える存在に触れてそのまま突っ走れるやつは、
やはり元からどこか地上に身の置き所の無い変わり者なのだろう。

 そう考えて改めてマダムを観察すれば、
この御婦人もどこか「狂」の気配を身に備えておられる。
 マダムは確信に満ちた声で
「わらわも、貴方にお力添えいたしましょう。しばらくこの町に滞在なさってください。
きっと何かの手がかりを見つけましょう」

 「かたじけなく存じます。ワタクシに出来ることがあれば何なりとお申し付けください」
 調子の好いことばかり並べ立ててムッシュは浮き足立っている。

 乃公は、ひどく心細くなって、キャプテン・スパーダに援けを求めたくなった。
 (キャプテン、今どこにいるんですよう)
 乃公をこんな目にあわせた元凶の悪魔だというのに、
なぜか懐かしさすら憶えていた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.45 ) 
日時: 2004/08/09 11:15
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 「私を目の仇になさっておられた御坊様が、いったい何の御用ですの」
女武者は、口調こそ厳しいが笑みを含んだ声で問うた。

 上背は無いが、体を動かすことに慣れた女の身体。
しっかりした骨格に、甲冑は見事になじんでいた。

 「あんたに、謝りに来たんじゃ」
悪びれもせずモガール和尚は言った。

 「人々の魂を悪魔から守る役目のわしが、
悪魔と戦こうておるアンタを魔女扱いしておった。
すまなかった、この通りじゃ」と頭を下げた。

 女は無言で和尚を見詰めていたが、
指を顎紐に掛けるとゆっくり兜を脱いだ。

 ノルマンディの夏陽に踊る漆黒の髪。
 猫を思わせる切れ長の瞳。

 スパーダたちは息を呑んだ。

 「お市の方!?}

 今年二月、日本で邂逅した貴婦人。
信長の妹たるお市の方その人が、今ふたたびスパーダたちの前に姿を現した。

 幾たびもその身を戦火にさらし、多くの別れに涙した黒い瞳
 だが、この御婦人は、運命に翻弄されるるままには肯んじず、
その繊手に刃を握り自ら路を切り開く強さを秘めていた。

 そう石舟斎は語っていた。
 船旅の徒然に、飽きるほど聞かされたものだ。
 「なにしろ、女子(おなご)の身で幻魔相手にエイ、ヤアと斬りかかるんじゃもの。
その艶っぽさたるや…」
 宙に視線を泳がせ昔日を思い浮かべる石舟斎の口元がだらしなく緩むのを呆れて見守っていたが、
なるほど、武装したこのご婦人の姿を拝見すれば、天下無双の剣客の肝も蕩ける分けを知る。

 「?」お市の方はいぶかしげにスパーダ達に目線を走らせる。
「和尚様、この方たちは?」

 「これなるお人らは外国より参られた、悪魔狩りのエキスパートじゃ。
いやいや魔女狩りの異端審問官などのインチキ野郎ではない、本物の悪魔狩人じゃ。
あんたに引き合わせたく思うて連れてまいった。
必ずや、アンタの力になって下さることと信じる」

 スパーダは挨拶した。
「私はキャプテン・スパーダ。これなるは同志アラストルにイフリート。
悪魔を退治するのを商売にして世界中を旅しております。
ご尊顔を配するのは二度目ですなマダム。
しかしこうしてご挨拶申し上げるのは今が初めてです」

 「以前お会いしたことがありましたか」
 
 「さよう、日本の京都で」

 お市の方は首をひねる。
 無理も無い。
 あの日、スパーダはイエズス会の坊主アレッサンドロ・ヴァリニャーニに化けた姿で、お市の方に目通りしていた。

 「その時、私どもは柳生石舟斎どのの客人でございました」

 お市の方の頬に、血の色が上る。
 恋人の名前を聞かされた乙女のように、愁眉を開いて生気が溢れ出る。

 二、三歩踏み出した彼女は、
だが、何かをこらえるように立ち止まると、落ち着いた声で
「柳生殿のお客人とあらば、私にとっても大切なお客様です。
ご招待申し上げましょう」と巨獣に向かった。

 軽々と巨獣にまたがると、二頭立ての馬車を操るようにフタ首の化け物の手綱をとる。
乗ってきた馬は大人しく脇に従った。慣れたものだ。

 「お市殿」その背にスパーダは声を掛けた
「柳生殿もこの地に参ってござるぞ」

 傾きかけた陽光の下で女の肩が小さく震え、
逆光の頬の輪郭に光の滴が流れるのを、スパーダはしっかりと見ていた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.46 ) 
日時: 2004/09/01 17:49
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 モンサンミシェル襲撃前に、
久しぶりで鬼武者3をおさらいしていたらスッカリはまりこんでしまいました。
 やっぱコレおもしれーわ。
 念願の「難しいモード」で称号「鬼武者」もゲットできたし、
そろそろキャプテン・スパーダの世界に戻ろうかと、
DMC1を伝説の魔剣士コスチュームで「スパーダ」クリアし始めると、
コレもまたすっかりはまり込んでしまいました。

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 「血の臭いがせんか?」とムッシュ・ヤギューは言った。

 生ぬるい夜の潮風に縮レッ毛を翻弄されながら、
宿房の窓から漁り火を見つめている。

 「気のせいでしょう…潮の臭いが濃いから」と乃公(オレ)が適当なことを言うと、
黒眼鏡を外した虎のような目でじろりと睨みつける。
 昼間とは打って変わった生真面目な様子に乃公は対応に戸惑う。

 「漁り火の向こうに、踊る魂が見える」
などと怪しい霊媒師のようなことを言い始めた。
もっとも素性が悪魔だから、珍しいことではないのかもしれない。

 「予言の剣士」を遇するにはいささか質素な部屋で、乃公たちは旅装を解き、
夕食には名物のオムレツなんぞを頂いたわけだが…

「ちょっと出かけてくる」とムッシュは言った。

「どこへ行くんですよお」

「礼拝堂だ」と腰に刀を装着して、すたすた部屋を出て行こうとするので、乃公は慌てた。

「まずいですよ。ゲストが勝手にうろついちゃ」と意見すると、例の虎の目で睨まれた。

 「おれは虜囚ではない」

 そりゃ、ごもっともだが、こんな物騒なオッサンを一人夜道に放すわけにも行かず、
乃公はしぶしぶ同行する。

 雲が低く垂れ込めて月の見えない暑苦しい夜だ。

 モンサンミシェルの内部を南北に結ぶ階段道を登っていく。
 狭い路の両側にいくつも口をあけて東西に伸びる小路が走っている。
そのいくつかは複雑に折れ曲がって、時には行き止まりとなる。

 「?」とだしぬけにムッシュが足を止めた。
 東側の壁に口を開けた横路の一つに気を取られている様子。

 「どうしました」と問うても返事なく、すたすたと小路に入っていく。

 路は狭いながらも天蓋つきで、なおさら暗い。
 不吉な気配をいっそう漲らせて、怯ませる。

 もともと乃公は、寺社だの聖域だのの雰囲気は苦手なのだ。

 こんなところに置いてけぼりはごめんだと、
ムッシュの背中にくっ付かんばかりに後を追う。

 路は行き止まりで、ぼんやり壁が光っている。

 「行き止まりだな」
 「行き止まりですね」壁を調べようと屈みこんだ、その時、
天蓋から人が降って来て、乃公の口から心臓が飛び出した。

 小汚い布で全身をくるんだ小柄なジジイが、
何故か逆さ吊りの格好で壁にぶら下がっている。
 扁平な貌の目ばかり大きな異相で、
鼻髭だか鼻毛だか判別しかねる長い毛をそよがせていた。

 怪人とムッシュはしばらく見詰め合っていた。
やがて、
乃公が、飛び出した心臓を咽喉の奥に押し込み終わったころ、
怪人は
「アレ?あんただっけかな」と呟いた。
 
 「なんのことだ」野太い声でムッシュが訊く。

 「まあ、いいや。あんた魔空空間って知ってるか」
怪人は構わず自分の話を進めている。

 「幻夢空間なら何度も行ったぞ」とムッシュが答える。

 「まあ、似たようなもんだ。行ってみるかい」
 「よかろう」とムッシュ
 「言っとくが、生命の保証はできないぜ。それでもいいいんだな」

 「くどい」

 「本当に行くんだな。ファイナルアンサー?」

 「ファイナルアンサー」とムッシュが答えると、
足元からむらがりおこる光の輪にその身体は包まれた。

 「ち、ちょっと待ってください、ムッシュ。どこへ行くんですよお」

 「小一時間ほどで戻る。そこで待っとれ」

 「厭ですよ、こんなトコで一人でいるなんて。
乃公も連れて行ってくださいよお」

 「あほかオマエは。
命の保証は出来ないようなところへこれから行くんだ。
はっきり言って、お前邪魔。足手まとい」
 言いたい放題言いながら、ムッシュの身体は光に包まれて消えた。
 後には、例の逆さ吊のジジイがにやにや笑っているばかり。

 「ムッシュはどこへ行ったんだ」と訊くと、
「まあ、おまえ等一般人には言っても分らぬ異界よなあ」と嘯くので、
腹立ち紛れ、サンドバッグのようにボコボコ叩いてみた。

 鼻血を噴出しながら、くだんのジジイは
「おぴょぴょ、わかったわかった、オマエもそこへ行って見るか。
自分の目で確かめたほうが理解も早かろ?」と言うので
「真っ平ごめん!」と断った。

 (仕方ない、ココで待つか)と膝小僧抱えていると、
夜の底の気配がいやにはっきりと伝わってくる。

 闇のどこかで、粘液質の足音が聞こえるような気がした。

 いや、気のせいではない。

 糸を引くような足音が、時折跳ね飛びながら近づいてきている。
複数の笑い声も聞こえた。

 乃公は腹帯にぶちこんだ短銃の銃把を握り締めた。

        角を曲がって、
     四つん這いの影が、
  笑い声を上げながら、
髑髏の貌を乃公に向けた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.47 ) 
日時: 2004/09/03 18:52
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 イリア村から西に一里ばかり離れた丘に、お市の方の砦は築かれていた。

 キャプテン・スパーダたちは、
魔物と人間が侵しあうことも無く共存している奇妙な光景をたっぷり堪能した。

火焔卿イフリートなどは「こいつは奇妙だ」という言葉すら失って「ふぐう」と唸っている。

 「一体どういう術を使ったものかねえ?」というスパーダの問いに
「私が信長の妹だから」とお市の方は答えた。

 こういうことらしい。
 幻魔王信長に心服している幻魔どもは、
同じ臭いをもったマダム・イチに無条件で従ってしまった、と。

 「つまり、信長と同じクラスの大物幻魔が現れない限り、
この地域の幻魔はあなたの手下と言うことか」スパーダは納得した。

 「いいえ、私の命令が有効なのは四里四方まで。
それを離れると、幻魔はあのモンサンミシェルの魔女の支配下となります」

 「ならば、ことは簡単」と迅雷卿アラストルが言う。
「あなたがモンサンミシェルに乗り込めば、
あそこの幻魔はあなたの手下となって働くでしょう」

 「それが可能ならそうしております」

 「はて」と髭をひねる火焔卿。

 「モンサンミシェルの内部には、私の力が及びません」

 「結界ですかな」覚えたての用語でモガール和尚が訊いた。

 「それが何と呼ばれているものかは存じません。
あの建物の中に入ると、今は従順な幻魔たちが人間に牙をむきます」

 「モンサンミシェルの魔女とやらに、
服従する力のほうが強くなるような仕組みがあるんでしょうなあ」
スパーダは考え事をするときの癖でモノクルをいじりながら言った。

 「モンサンミシェルの内部には、まだ人間も多く残されています。
私は彼等を助け出したい」マダム・イチは呻くように呟く。

 「事情は分りました。われわれにお任せいただきたい」
スパーダはキザに両手を広げて言った。

 「?」

 「モンサンミシェルの結界の謎を解き、
あなたの魔軍が働けるようにお膳立てを整えましょう」

 「そんなことが出来るのですか」瞳を輝かせる。

 「このキャプテン・スパーダとその一党。
その筋に少しは知られた悪魔狩人でございますぞ」
右手を胸にお辞儀した。

このスパーダの軽薄な物言いに
(悪魔退治はともかく、ぶっ壊しが専門で、謎解きはたいして得意じゃないだろ?おれらはよ)
後ろで迅雷卿と火焔卿がしらけた貌を見合わせていた。


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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.48 ) 
日時: 2004/09/05 19:07
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 「ファイナルアンサー?」と逆さ吊のジジイは訊いた。
 「ファイナルアンサー!」と乃公(オレ)は答えた。

 状況が切迫しているにもかかわらず、ジジイはじっと乃公の目を見つめている。
 背後には髑髏の顔した大トカゲがヒタヒタと迫ってきている。

 「早く、飛ばしてくれ!」乃公はジジイの腹を蹴りつけた。

 ようやく展開し始めた光の輪~
魔空空間】とやらへ通じると言う光に包まれながら背後を一瞥すると、
大トカゲが後肢で立ち上がり、まさに乃公の頭につかみかかる寸前だった。

 悲鳴を上げながら閉じた目を恐る恐る開くと…

 乃公はドーム状の部屋の中で、化け物の群れに取り囲まれていた。
 四脚の上にミイラの上半身をくっつけたような化け物どもが、
手に幅広の長剣を握って駆け寄ってくる。

 『フライパンの中から這い出して火中に落ちる』という諺があるが、まさに絶体絶命。
 口をいっぱいに開いて絶叫したつもりだったが、もはや声も出なかった。

 震える手で短筒を化け物にむけ一発放ったが、
化け物は「カクン」とのけぞっただけで、元気いっぱい迫ってくる。

 その時―
「どぇやっ!」と野太い気合が空気を切り裂いて、
乃公は化け物の間を電光のように駆け回る影を見た。

 「何しにきた!このボケっ」とムッシュ・ヤギューが剣を振り上げて怒鳴った。

 「外も化け物でいっぱいです」乃公は怒鳴り返した。

 「何じゃとお?」ムッシュは顰め面で吼えた。
「あのクソぢぢい!騙しやがったか」とフロアの隅に置かれた宝物箱を蹴飛ばしている。
 「せっかく、一番下まで降りて解除アイテムを拾ってきたのに、
この箱の封印に合わんときている。どうなっとんじゃ、こりゃあ」さらに蹴りつける。

 「あの、おもてで化け物が…」おずおすと言うと
 「わかっとるわい、そんなこたあ」不機嫌に刀を納め、のしのしとフロアの中央に。
 大きな円盾を伏せたような台座があって、それに乗ると
「ついて来い」と乃公に怒鳴った。

 「でも、外には化け物…」
 「ここにおったら、また出てくるぞ」

 乃公は飛び上がってムッシュにしがみついた。

 光の束が足元から広がって、乃公たちはモンサンミシェルの路地に戻った。

 「どこだ?化け物は」冷ややかな視線でムッシュは乃公に問う。

 「そこの兄さんが魔空空間に逃げ出したもんだから、
とっとと別の獲物を探しに行ったよ」例の逆さ吊ジジイがのほほんと答える。

 「てっめっ!何がお宝だ?ふざけんなド畜生!」
ムッシュがジジイをサンドバッグのように叩き始めた。

 血まみれの歯を吐き出しながら
「お若いの、短気は損気じゃ。それはほかの魔空空間で使えるアイテムじゃ」と、
なだめるジジイの鼻柱へ膝頭を打ち込んでムッシュ
「やかましい」と喚いた。

 「まったく、エライ無駄足じゃった」

 「まだ歩き回るつもりですかい。もう部屋に戻りましょうよお」
 「って、おまえは新婚ほやほやの嫁か?」ムッシュは苦笑いしながら、
すたすた石畳の階段を登って行く。

 礼拝堂の扉は鍵で閉ざされていた。

 「ほら、御覧なさいようお」と言いかけた乃公の目の前でムッシュは刀を一閃させた。
扉の隙間に走った剣光は「ごとり」と鍵を断ち切っていた。
 (鉄ですよ、あれ…)

 「ボケっとすんな。手を貸せ」
 重い扉を二人がかりで押し開けて礼拝堂に侵入すると、
昼間とはうって変わって禍々しい気配に圧倒された。
 香炉が消えた堂内には、乃公にもわかる血の臭いがこもっていた。

 水車小屋の機械音のように規則的な振動が地下から伝わってくる。
 「何じゃろうな?」
 下手の戸口から狭い階段を降りてゆくと、振動音と血の臭いはますます強まっていく。
 階段のあちこちに赤い服を着せた等身大の人形や、甲冑のパーツが転がっている。

 降り切った扉を開けるとだしぬけに、
外洋航路の帆船がいくつも入るほどの空間が広がった。
 硫黄のような腐臭。
 巨大な金属製のリングと球体がぐりぐりと回転している。

 「なんじゃ、ありゃあ」ムッシュが呟いた。
 乃公もよく見物しようとして手すりにつかまって身を乗り出した時、
その濡れた感触に思わず手を引っ込めた。
 べったりと掌に血がついている。
 「なんじゃ、こりゃあ」乃公は悲鳴を上げた。
 手すりは剥き出しの筋肉に覆われ、血を滲ませていた。
 思わず後じさって背中にぶつかった壁の感触も、肉の塊だ。
 「ひええええっ」おぞましさに飛び上がった。
 
 ズタ袋を裂くような乃公の悲鳴を聞きつけて、
わらわらと駆けつけてくるモノどもの気配がする。

 「がしゃり」と足元に転がっていた人形が立ち上がった。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.49 ) 
日時: 2004/09/27 12:41
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 「変だとは思いませんか」と迅雷卿アラストルは言った。
 モンサンミシェルに向かう馬車「彗星号」の車中、
手綱を火焔卿イフリートに任せて長剣の手入れをしていた迅雷卿は、
釈然としない貌をスパーダに向けた。

 「何が?」スパーダは銃を組み立てながら訊く。

 「モンサンミシェルの結界の中で、どうやってマダム・イチは幻魔を手なづけたんでしょう」

 「人には言えない苦労もあったってことじゃないかね?
いろいろ不名誉な目にも遭われただろう。
細かく御婦人に質すようなことじゃないよ」スパーダは興味なさそうに答える。

 「マスターらしくも無い、投げやりな態度ですなあ」迅雷卿は後ろ頭を掻いた。
「私には、作為的なものが感じられるんですがね」

 「何の作為だね」

 「モガール和尚の脱出話と同じですよ。
何者かがあえて監視を緩めて、マダムを脱出させた」

 「考えすぎだろ」とスパーダは一蹴した
「モガール和尚のときは『生きた結界パーツ』としてワザと放逐された。
さて、マダム・イチを脱出させて、幻魔に何の得がある?
現に反抗勢力を組織されて、連中迷惑しているじゃないか」

 「さよう…それが分らない」迅雷卿は腕組みして考え込む。

 「では、続けて考えてくれたまえ」スパーダは、軽薄だが勘のいい迅雷卿の懸念を尊重した。
「だが、そろそろ迅雷卿の出番だぜ。頭を切り替えろ」

 敵陣偵察となればまず迅雷卿の働きどころである。

 「ふむ」と身体を伸ばして、窓から上半身を乗り出した。

 サザエの化け物のようなモンサンミシェルの、中心にそびえる尖塔の上に、妖しの雲が掛かっている。
かすかに雷気を帯びて、激しく対流しているのが遠目にも分かった。

 「おっどろ、おどろしいですなあ」馬車を止めて、火焔卿が言った。
「低く垂れ込めた重苦しい雲が、あの尖塔に吸い込まれるように集まっている。
なにやら、敵さんも歓迎の仕度を始めたようですな」

 「それはそれで構わんさ」とスパーダ、モノクル光らせ不敵に笑う。
「迅雷卿、頼んだぞ。できれば石舟斎殿の消息も分かれば好都合だ」

 デビルトリガーを発動させた迅雷卿
ムッシュ・ヤギューが旗振って踊っていてくれたら分かりやすいんですがねえ」
軽口叩いて、球電の火の玉に姿を変ずる。
 文字通りの迅雷となってモンサンミシェルの上空に駆け上がった。

 「結界がなければ【霊脳網】で通信できるんだが。報告待ちだな、ここで」
見送ってスパーダが言った。
 「あいつのことだから、きっちり仕事してきますよ」火焔卿が答えた。

 建物に近づくにつれ、結界はがちゃがちゃに入り組んできた。
 「何だ、このチマチマした組み式は。面倒くせえな」
迅雷卿は結界【式】を解きほぐし、抗体を騙しながら先に進む。

 先のモガール和尚の脳内に埋め込まれていた【端子】を分解したことから、
魔人の魔力を減少させる六茫星結界は減退していたが、
モンサンミシェルの構造物自体に組み入れられた【攻性結界】は、
しつこく迅雷卿の行く手を阻んでいた。

 とはいえ、
ヴァージョンアップの度に、以前のプログラムに屋上屋を架して、
ソースがぐちゃぐちゃになっているマイクロソフトのOSみたいなもので、
結界(ファイヤーウォール)と言ったところで抜け穴だらけなのはご同様…

 迅雷卿はレジストリを書き換えて、ちゃっかり内部の存在に成りすました。

 ファンタジーにあらざる艶消しな表現で城内への侵入を果たした迅雷卿。
デビルトリガーを切って人間態となる。途端に鼻をつく異臭。
 足元がぬかるんでいる。

 (石畳のはずだが、はて?)
 
 上げた足裏に犬の糞を踏みつけたような不快感が追いすがる。
 乾きかけた血液が泥と化してモンサンミシェルの路上いっぱいに広がっていた。

 (何が起こったんだ)
 危険を察知して跳び上がると、エアハイクで二階のテラスに取り付き身を潜めた。

 姿を消した迅雷卿が観察する中、血に濡れた石畳が一斉に身震いし盛り上がり始める。

 (なんだこりゃ)

 石材の組み合わさりは滑らかに高さを増し、人の頭部のような形を構成した。

 下級悪魔の中には、血に残された犠牲者の怨念を媒介に魔力を高める者がある。
とすれば、凶行現場に残された血を媒体として石畳を操る術もあるだろう。しかし…

 「えげつない事しやがるぜ」
 迅雷卿は、家屋ほどの大きさに育った人面石がゆっくりと目を開くのを見ながらデビルトリガーを発動した。

 テラスから上空へ、聖ミカエルを奉る礼拝堂のステンドグラスまで一気に飛ぶ。
 下界はるか、小石のように見える人面石が滅多矢鱈と光の矢を吐き散らしているのが見えた。

 「すまんな。偵察中なもんで、おめえの相手はしてられない」

 ステンドグラスの鉛枠を伝って電気透過した迅雷卿は、礼拝堂の内部に入りこむ。
 蝋燭ばかりの暗い明かり。
 低く詠唱される祈りの言葉。
彌沙(ミサ)が始まると見えて、全身頭巾の人々で席が埋められている。

 迅雷卿は二葉の翼を広げ、しばらく天井高く滞空していた。

 祭壇に向っているのは若い女。脱いだ頭巾を背中に垂らした姿で、祈りを捧げている。
ひとしきり詠唱した後、女は信者たちに向き直った。

 「神の正しき教えを汚し、善良なる衆生を苦しめた魔女を、成敗する時が来ました」
美しい声が凛と響き渡る。
 「私はイリア村の西に巣食った魔女とその眷属を討ち果たします。
皆さん、私に力を貸してください」

 信者たちは一斉に「オウッ」と応じ、頭巾を脱いだ。
 フードの下は皆、色彩鮮やかな皮革鎧で覆われている。
爬虫類じみた鱗状の装甲が、生身の肌のように滑らかに光を反射した。

 (こりゃあ、一大事だ。敵さんのほうが先に攻撃しかけてくるよ)
迅雷卿がすみやかに引返そうとした時、女は再び語り始めた。
 「皆さん、ありがとう。感謝いたします。
このカトリーヌから皆さんに誓いの証をたてます。
神の教えに背く悪魔ども。まずは出陣の前に一匹血祭りにあげて見せましょうぞ」
と、天井の迅雷卿を指差した。手にした神杖がまっすぐ迅雷卿の眉間を狙っている。

 一斉に振り仰ぐ顔、顔、顔…は皮膚を剥ぎ取られた人体解剖図の如し。
鎧と見えたは、まことの皮膚で【幻魔】に改造された者共と知れた。

 「血祭りなんぞ真っ平ごめんっ!」
 迅雷卿は躊躇いもなくエアレイドから電撃シャワーを降らせた。
 「偵察もへったくれもあるか。皆殺しだ、こいつら」
 ちらと、スパーダのしかめっ面が浮かんだが、
事ここに至っては釈明の必要もなかろうと、宙空から下々に稲妻の雨を降らせる。
 しかし、
女が笑っていた。甲高く堂内に反響する、魔女の笑い声。

 電撃が祭壇の十字架に吸い込まれている。
 唖然とした迅雷卿の胸を、魔女が投じた神杖が貫いた。

 「きしししし」金属的な声が耳に障る。
床に叩きつけられた迅雷卿の頭の上に、かがみこむ気配がある。
 黒衣の男は言った。
 「やれやれ、避雷針と言うものを知らないのかね、下等悪魔は」
 黒衣の男は、迅雷卿の胸に刺さった杖をぐいと掴んで捏ねくり回した。

 「おや、まだ生きている。しぶといねえ下等生命体は」
嬉しそうに呟くと魔女を振り仰いで、
「こやつの身柄、私の実験材料に頂いてよろしいですかなマダム」

 「なんなりと、存分に切り刻まれるがよろしかろう」と魔女は答えて、
「ギルデンスタン博士の究理の礎となる名誉に、こやつも感激いたすであろう」
 高らかに宣言して、自らの胸を引きむしる。
布のように裂けた白い肌の下から覗くは青黒き鱗の列。
 
 迅雷卿アラストルは、薄れ行く魔力を振り絞り、真っ直ぐ天に向けて長剣を放った。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.50 ) 
日時: 2004/09/22 13:17
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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北門より「柳生石舟斎-無頼控」
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 「いい趣味してるねえ」とムッシュ・ヤギューは言った。

 等身大の糸繰り人形が手に短剣を握って襲い掛かってくる、のを見て放った第一声がこれだ。
 この化け物の造形を評価する言葉らしい。
 どういう趣味をしているんだ、このオジサン。

 こけつまろびつ乃公(オレ)が人形の足元から脱すると、
ムッシュは刀も抜かず人形を蹴りつけた。

 「ぎりいぃぃぃいっ」人形が、人形の癖に吼えた。

 ムッシュは刀を抜くと、手の中でそれを巨大なハンマーに変化させた。
どういう理屈でそうなるのかは訊かないでほしい。
 「どぇやっ」と人形の頭を叩き潰した。

 「ひさびさに使ったが土荒槌、なかなか好い手ごたえだ」
 
 「まだ、来ます!あれ!」

 「うるさい!きゃあきゃあ喚くな」
ムッシュが次手の魔物に襲い掛かる。そう…襲い掛かるとしか言いようの無い容赦なき攻め。
悪魔以上のモンスターがこのオッサンだ。

 破壊された人形の後ろから次に現れたのは鎧武者だった。
青緑や薔薇色の美しいオーラに包まれたそいつには、中身が無かった。
 甲冑だけが自力で立ち上がり、幅広の長剣をぶん回しているのだ。
 
 「も、いっちょ来いやあ」ムッシュは躊躇う色も見せずハンマーを振り回す。
多分に楽しんでいる。存分に喜んでやっている。

 横殴りに鎧武者の兜を叩き飛ばすと、残った胴のほうへ、
背中から回して勢いづけたハンマーヘッドを垂直に叩きつけた。

 ぐしゃぐしゃと、複雑な折り畳まれ方で鎧が重なり潰れる。

 「食い足りん、食い足りんぞお、わしは」血に飢えたようにげたげた笑っている。
とっても厭な感じだ。

 階段を駆け下りて、機械の回っているフロアに立つ。
 上にいては暗くてよく分らなかったが、
うろうろ動き回っているのは化け物ばかりではなく、
手鎖、足枷の人間たちも多く働かされている様子だ。

 「ムッシュ!気をつけてくださいよ、民間人もいます!」

 「わーかっとる」と喚いてムッシュは「牢を探せ!地下牢だ」

 「牢たって、いろいろですよ」

 「そこらでこき使われている人つかまえて訊け」
訊いた。
アジア人の女が入れられている房を知るものはなかったが、
女ばかりを収監した獄があるという。

 「でかした」と吼えてムッシュは「アンリ!こいつ等に通訳しろ」
通訳した。
「わしは東洋から悪魔を退治に来た剣士である。
おまえ等は解放された。
わしが守るから、おまえ等は安心して自らの鎖を切りたまえ」

 それぞれ自分たちの道具でお互いの鎖を切って回ったから仕事は速かった。
 ムッシュは満足そうにそれを見守ると乃公を促した。
「アンリ、ご苦労だった。これから先はオマエがこの人たちを先導してやれ」
そういいながら、自分の火薬袋を乃公に寄越すので仰天した。

 「あんた、そりゃ無責任な!乃公一人でどうやってこの人たちを守るんですよ」
 「この火薬であのカラクリをぶっ潰せ。雑賀発破だ、強力だぞ。どこを壊せばいいかはこの人たちに聞け。
ラクリが破壊されたら敵は逃亡者どころじゃなくなる。混乱に乗じて脱出しろ」

 「簡単に言いますね~」

 「人間は魔物の家畜ではない。人として死にたければ武器を手にして戦え!と、こやつらにも通訳しろ」

 「あんた最初から、この人たちに戦わせるつもりだったんだな。非道いやつだ」

 「死んだつもりで戦えば、生き延びる目も出てくるさ」

 「あ、悪魔め」

 「おれは鬼武者だ」とにんまり犬歯を剥き出して笑うと「しっかり励めよ」と乃公の背をどやしつける。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.51 ) 
日時: 2004/09/28 10:06
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南門より「イリア村の魔影」
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 「はて面妖な?」と火焔卿イフリートが小手をかざす。
モンサンミシェルの尖塔から天に向かって紫電が迸っている。

 「アラストル?」
 遠目にも判別できるアラストルの豪剣が、礼拝堂の天井をぶち抜いて宙に舞い激しく旋回していた。

 「何のサインだね?ありゃあ」スパーダが首をひねると火焔卿も
「はて?」と腕組みするところへ、ランドトリップ中の豪剣が、二人めがけて急降下してきた。

 すかっ!

 剣を避けようと、両手を挙げて右往左往していたスパーダの鼻先に剣が突っ立った。

 「何のつもりだあのバカ!」スパーダは腹立ち紛れに剣を蹴っ飛ばし、つま先を傷めて飛び上がった。

 「ボッス」と神妙な顔つきで火焔卿が言う
「あやつは性格はねじれ根性はゆがみ容姿も貧相な愚か者ですが、剣の腕だけは確かな野郎です」

 「その剣の達人が、なんだこの体たらくは」スパーダは地面に突き刺さった剣を指差して喚いた。

 「ことにあやつが、ラウンドトリップをしくじるなどとは、ただ事に非ズ」

 「そりゃあ、まあ、そうだ」とスパーダうなづきながら剣を拾って火焔卿に
「主義に反することになるかも知れんが、持って行け」と手渡した。

 「まったく趣味の悪い得物ですなあ」と火焔卿も苦笑しながら剣を佩く。
 
 二人は軽口を叩きながらてきぱきと馬車から馬を外す。
 化身を解いた四頭の馬は、黒白二匹の龍となりスパーダたちの前にかしづいた。

 「城内ではおれたちのDT効果も半分に目減りしていると覚悟しろよ」
白龍ルーチェにまたがったスパーダは火焔卿に釘を刺す。

 「半分で結構。ヘナチョコ相手に半手つけてちょうど良いでしょう」
黒龍オンブラの上で火焔卿、哄笑す。

 騎上から放たれた、赤、黄ふたつのメテオが南門を襲った。
 二人合わせていつもの一人分だが、
高さ十余メートルに及ぶ巨大な門扉を吹き飛ばすには十分な破壊力を発揮した。

 スパーダと火焔卿は爆塵を捲いて破壊された門内に飛び込んで、慌てて手綱を絞った。
 礼拝堂にいたる段路を、巨岩が塞いでいる。あやうくぶつかり掛けた。

 「まったく、面倒な城ですな。あれも吹き飛ばしましょう」
メテオを溜め始めた火焔卿に、スパーダは鋭く警告した。

 「さがれ!イフリート」

 巨岩はくるりと振り向いて、大きく口を開いた。
 険呑な白光の矢が数多、火焔卿の目の前に展開した。 

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.52 ) 
日時: 2004/09/22 18:10
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」
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 「美しい血が滴り…」と呟きながら階段を下りる黒衣の男がいる。
 背後には、宙に浮いたアラストルの身体。風船を引っ張るように運んでいる。
 「こやつもわしの手に掛かれば…」歌うように、呪文のように、黒衣の男は呟きながら階段を下りていく。

 ギルデンスタン博士の実験室は地下牢のならびにある。
 彼が光を嫌うのも一因だが、実験材料を手早く手術台に乗せる便利がもっともな理由だ。
 礼拝堂から地下牢まで直通の螺旋階段を下りながら、博士は「魔人の生体解剖」への期待に心躍らせていた。
 
 途中、工場のあるフロアを抜けるさい、魔物や人間の悲鳴を聞いたが、
「いつものことだ」と気にも留めなかった。
 それより、貴重な実験体への関心で血圧が上がっているのが自覚できた。
 階段を降りきり、実験室の扉を開くのももどかしく、鍵を何度も外しかけた。

 壁に並んだ椅子には、頭蓋骨の天辺を外した人体を拘束してある。
 丁寧に止血処置してあるので、存分に元気な材料だ。
 剥き出しの脳髄に打ち込んだ針に電気を通して苦痛を与えるのが目的だ。

 地球の生命体で、人類ほど脳髄バランスの悪い生物はいない。
 生存に必要ない大量の神経組織の塊を抱えた結果、苦痛に対する過敏症状を呈している。
 その代償として、人類の脳はモルヒネの何万倍と言う強力な脳内麻薬ホルモンを自家生産する。
 そうしなければ、生命を維持できないほど「痛がり屋」なのが人類だ。

 幻魔が、その脳内麻薬の味を知って人類を嗜食するようになって数万年が経過していた。
 ギルデンスタンのような科学者は、そのような過程で生まれてきた。
 すなわち、人間を殺さぬように最大の苦痛を与え、大量の麻薬ホルモンを生産させること。
そのための技術と知識が科学として発達し、やがては筋肉組織も含めた人体改造や造魔のノウハウへと結実した。

 その科学者集団のトップリーダーたるギルデンスタンにとって、
【魔界】の上級生物を研究する機会を得られたことは、
麻薬ホルモンの摂取などよりもはるかに、興奮と快楽を導く「楽しい仕事」であったのだ。

 ギルデンスタンは手術台の上に乗せっぱなしにしておいた女を払い落とした。
 モンサンミシェルの魔女たるカトリーヌが、デザート用に注文していたものだ。
 剥き出しの脳髄が床にこぼれて崩れたが、ギルデンスタンには何の感興も無い。

 さらってきた美女を陵辱の褥に横たえようとする好色漢のごとく、震える手でアラストルの身体を手術台に置く。

 ギルデンスタン博士はもはや人の姿を保っていられなくなっていた。
 頭部がぐちぐちと音を立てて膨張し、アンモナイトのような巻貝構造をあらわにした。
その開口部からぞろりと吐き出された触手と、髑髏のごとき顔。

 「きしししし」と金属的な笑い声を響かせながら、ギルデンスタン博士はアラストルの胸部の傷口に指を這わせた。

 ポン
と肩に手を置かれて、博士は飛び上がった。

 「何やっとるんだイカゲソ野郎」野太い声が響く。

 振り向くと、野性的な瞳のアジア人がゴツイ指を博士の華奢な鎖骨にめり込ませていた。


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 Re: キャプテン・スパーダ「モン ( No.53 ) 
日時: 2004/09/27 04:30
名前: ニセファイティングスタジオ


ギルデンスタン~、こいつは鬼武者1にも出て来ましたよね?
サマー之助さんの、お芝居か何かを見ているようなテンポの文と、
新鮮な表現がとにかく内輪で好評ですw
1話ごとにお腹一杯になるぐらい洗練されてて、ホントに鬼武者2以降を知らないのがもったいないなぁ・・w;

いや、なんとか乏しい理解力と想像力駆使して、サマー之助さんの小説だけで覚えていこうと思います。

えーと、ここからは余計なレス。
なんだか僕の事をえらく買って下さってるようで、最初雑談スレだかどこかのレスを拝見した時飛び上がって喜びましたよ、隣のおじいちゃんが。(隣のおじいちゃんが!?)
本当に、読めば読むほどレベルがぜんぜん違くて、「なんでこんな凄い人が僕なんぞを」と頭が上がりませんw;
でもすっげぇ嬉しかったです、ありがとうございますw

では、続き頑張って下さい~

 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.54 ) 
日時: 2004/10/25 12:19
名前: 明智サマー之助


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まいど!ニセファイティングスタジオさん
励ましのお便り、かたじけなく存じます。

ちょっと雑用が立て込んでいて、続きになかなか取り掛かれませんでした。
ようやく始まったスパーダたちの「襲撃」シーンを瞼の裏に浮かべつつ、
電車の中などで、ちょこちょこっとメモに筆走らせて下書きしては、
「ううむ、連中をもっとスタイリッシュに動かせないものか」と唸っておりました。
唸りついでに「小説コンテスト」にも気をとられ、ますます散漫な脳味噌でござい。

>ホントに鬼武者2以降を知らないのがもったいないなぁ・・w;

DMCファンと鬼武者ファンて意外に重複していないのですなあ。
バイオと掛け持ちの人は多いみたいですけど…残念!

これから先、
ギルデンスタン博士は鬼3にも登場する重要キャラですからこの話の中では「始末」しませんが、
実在の人物カトリーヌ・ド・メディシスには、
史実(1589年)よりも少し早くお亡くなりになっていただこうという算段です(←無茶!)。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.55 ) 
日時: 2004/10/25 12:24
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「きさま、柳生十兵衛!?ここまで追ってきたのか」黒衣の怪物が驚愕の声を漏らす。

 「ほほう、噂に聞くギルデンなんとかというキチガイ博士はあんたか。
明智左馬之助がさんざん悪口言っておったぞ」怪物の肩をつかんだまま石舟斎は嘲笑う。

 「虫ケラが、この手を離せ。左馬之助といい貴様といい、鬼武者というやつは生意気で好かん」
ギルデンスタン博士はじたばた藻掻く。

 「オマエなんぞに好かれたら、えらい目に遭いそうだ。
そこに伸びている野郎は、どうもオレの友人らしいが、どうする気だね」

 「キサマに関係ないことだ、あぎゃあ!」博士は悲鳴を上げた。

 「大人しく素直に答えないと、毟っちゃうぞ」石舟斎は指の第二関節まで博士の肩にめり込ませていた。

 「こ、こやつに新しく強大な力を与えてやろうとしていたんだ、うっぎゃあ」

 「ふうん」石舟斎は、ギルデンスタンの鎖骨を掴み潰した。壁に並ぶ犠牲者の列に目をやると痛ましげに眉をひそめ口をへの字に結んだ。もはや救いようも無いほどに破壊された人体が、それでも強制的に命を繋がれもがいている。

 「痛いじゃないか、こんな酷いことして…あっぎゃあ」博士は抗議した。

 「やかましい」今度は触手を1本もいだ。

 あまりの騒々しさに、アラストルが目を覚ます。
「よお」と片手で挨拶する石舟斎を見て、アラストルいきなり殴りかかってきた。

 「うわっ、何のつもりだ」博士を盾に石舟斎がパンチを避ける。
 「うるせえ、てめえが身勝手に一人でモンサンミシェルに乗り込むから、オレたちがどれほど心配したか」
盾にされたギルデンスタン博士をボコボコ殴りつけながらアラストルは喚いた。
 博士の巻貝状の頭部にひびが入り、端が欠け、顔面にヒットした一発は右目を抉って水晶体を漏らしていた。
鬼武者3】で博士が右目にメカニックなレンズを嵌めていたのは、この時アラストルに潰された肉眼の代わりである。

 「この元気なケガ人め」喚いて石舟斎、襤褸切れのようになった博士をアラストルに投げつけた。
 「やかましい」裏拳で博士を叩き落として肢で踏みつけると、アラストルは言った
「無事で何よりだ、石舟斎どの」笑った。
 「貴公は満身創痍でお気の毒だ」石舟斎はぶすりと答えた。

 「こんなもの大した傷じゃないが、DT効果が薄いので回復に手間取っているだけだ」とアラストル。
 「生命力を少し分けてやろうか?」
 「いらん。男から命を分けてもらう趣味は無い」
 「同感だ」石舟斎は苦笑して「その襤褸切れに用がある、こっちに寄越してくれ」博士を指差した。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.56 ) 
日時: 2004/10/25 12:27
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「このアンモナイトみたいな骸骨野郎はなんだ」迅雷卿アラストルは今更ながら問うた。

 「幻魔の科学者。生き物を切り刻んで、新しい幻魔を作るのが趣味の変態だ」
口にするのも汚らわしいと言わんばかりに唇の端をゆがめて石舟斎は答えた。

 「俺はあやうく毒牙に掛かりかけた」と迅雷卿が壁に並んだ犠牲者を一瞥し、忌々しげに呟くのを聞きとがめて、
石舟斎は「痴漢に怯える美少女じゃあるまいし、気持ち悪いこというなよ」苦笑する。

 ギルデンスタン博士を片手で宙に吊るし、石舟斎は野太い声で言った。
「左馬之助によれば、あんた相当に頭がいいらしいな」

 「幻魔界最高の頭脳の持ち主だ。その私にこんな仕打ちをして、許さんぞ下郎め」
博士は頭の開口部から生やした触手を震わせて怒っている。

 「自分で言うほど頭はよくないようじゃのう」石舟斎は博士の触手を引っ張りながら言った。
「状況判断が出来ていないな、このイカゲソ」触手をむしりとった。
 博士の絶叫が地下室にこだまする。

 「な、何が望みだ」かすれた悲鳴を漏らし博士は訊いた。
 「それを自分で考えろ。どうすれば痛い目に遭わずにすむか、自分で考え自ら進んで行え」
石舟斎は、もいだ触手の先端で博士の鼻(?)をクスグリながら言った。

 「女だな」博士は言った「信長様の妹、お市の方の身柄」
 「わかっているじゃないか」
 「牢獄のカギを渡そう」と言う博士の残された触手をぐいと掴む石舟斎
「幻魔のカギなんぞ貰っても使い方がわからん。おまえが自分で開錠しろ」
 博士は胸の中で舌打ちした。
 このカギは別に幻魔の技術で作ったものではないのだが、使い方を知らなければ開錠することが出来ないのは事実だ。
(よく、見抜きおったわ、このサル)
 ルネサンス以降ヨーロッパでは鍵製造の技術が発達し、今日われわれが知るダイヤル式の金庫ロックなども既にこの時代に発明されている。
 地下牢の鍵も同様の原理を応用したもので、錠に差し込んだ後、決められた手順で左右に回さなければ開錠することが出来ない。
 ちなみにこの独房群は、ナポレオン時代以降もまだ政治犯を収監する牢獄として使われており、アナーキストのブランキなどがぶち込まれて泣いた。

 この二人のやりとりを傍で聞いていた迅雷卿「ん?」と割って入った。
「どういうことなんだ?マダム・イチは既に脱出されているぞ」

 「何を言っている。向かいの女牢にちゃんといる」石舟斎は指差した。

 頭の鉢の周りに「?」を五つばかり旋回させながら迅雷卿が女牢を覗き込むと、房内にはただ一人、口に枷を嵌められ、随分な格好で縛り上げられている婦人の姿があった。
 日本のキモノローブの裾が乱れ、哀れな格好である。
 なるほど、お市の方らしく思われる。

 「このくそイカゲソ野郎がさんざんもてあそびやがったらしい」
石舟斎は博士を雑巾のように壁に擦り付けた。

 「わかった、わかったから、もういじめないでくれ」哀れな口調で博士は鍵を取り出した。

 迅雷卿はなおも頭上に「?」を旋回させながら、胸の中、襲撃前から感じ続けた違和感の根を探った。 

 「お市殿、お迎えに参った」婦人の縛めを解きながら石舟斎が言う。
 「石舟斎殿…」万感の思いを胸に見つめあう二人。
 迅雷卿が苦しく考えているあいだにも、抱擁し接吻など交わしている。
 見守っていた迅雷卿はだんだんバカらしくなって思考を停止した。

 そのとき、頭上で腹にこたえる爆発音が轟いた。

 「アンリめ、おっぱじめやがったな」石舟斎はお市の方の手を引き、迅雷卿を促した。
「行くぞ!」

 「なんだ?どうなっているんだ」迅雷卿の問いに、駆け出しながら石舟斎
「アンリに、地下工廠の爆破を命じた。今のはその第一発だ」

 「コイツはどうする」迅雷卿はギルデンスタン博士を振り回した。
 「もう用無い。ほしいならお前にくれてやる」と石舟斎。
 「別にいらねえよ、こんなもん」迅雷卿は博士を床に放り出して石舟斎の後に続いた。

 工廠側は火の海に阻まれ、いたるところ下級幻魔や悪魔どもが炎に包まれ狂ったように走り回っている。

 「俺につかまれ」迅雷卿はデビルトリガーを発動すると翼を展開した。
 石舟斎はお市の方の帯で互いの身体を結び合わせると迅雷卿の腰につかまる。
 迅雷卿の翼から金気くさいイオンが噴き出すと、一気に工廠の天井にまで上昇した。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.57 ) 
日時: 2004/10/25 12:28
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「弱い、弱い!」
 胸をそらして白光の矢を全身で受け止めた火焔卿イフリートは哄笑した。

 「炎の魔人を倒したければコレくらいのことはやれ」
 黒龍オンブラの背を踏み台に跳び上がると、人面岩に体当たりする勢いで「インフェルノ」をかました。

 ジャンプから着地するまでに自分のまわりへ結界を張り、着地と同時に結果内を一瞬数十万度の熱で満たす荒技だ。
 ヒロシマ原爆の火球中心温度が約100万度で、爆心地周辺の地表面温度が約4000度である。
 ヒロシマの被害は熱線や放射能もさることながら、第一次被害の主たるものは一瞬にして膨張した空気が巨大なハンマーとなって家屋をなぎ倒したことにある。
 火焔卿のこの荒技も、もし結界を張らずに行えば敵味方の別なく周囲に甚大な被害を与える凶悪の魔術だ。

 事実、昔は結界を張らずに使用していたらしい。まだ誰とも共闘する必要を感じなかった「はぐれ悪魔」時代。
何も守るものを持たず、魔界の傭兵としてさまざまな魔王に仕え、あわよくば一国一城の主たらんとしていた昔。
 アラストルやスパーダと出会うはるか以前のこと。
 火焔卿が変わった理由を仲間二人は知らない。
 インフェルノの結界についても単純に「閉鎖した空間内なら効率よく焼きあがるだろうなあ」くらいの認識しかない。
 
 少年ジャンプならここで、火焔卿の因縁話を3週間くらい引っ張るところだが、あいにく明智サマー之助は気が短い。
おまけにこの設定、今思いついたのでイフリートの過去に何があったのか、書いている本人も知りようがない。

 DT効果半分の「インフェルノ」とはいえ人面岩の表面は焼け爛れ、赤く融けた岩石が血のように滴る。
 急激に加熱された岩石組織は、その深部で温度差から膨張率の違いによる亀裂を生じさせていた。

 火焔卿は指の関節を鳴らして拳を固めると、ゆったりと腕を引き冗談のように軽く人面岩を叩いた。

 氷柱がはじけるような涼やかな音を響かせて、巨岩の化け物は幾千の破片に砕け散った。

 「ブラボー、ブラァーボゥ」騎上でスパーダが賞賛の声を上げている。
普段クールでスタイリッシュに見せていても根が陽気なラテン系悪魔だ。

 「礼拝堂まで一気ですな」何事も無かったように火焔卿は黒龍オンブラにまたがると剣を抜いた。
アラストルの剣に魔導力が蘇りはじめている。

 「やつめ、やっとお目覚めか」髭面に笑みが刻まれた。

 そのとき、轟音とともに段状の石畳が陥没した。
 アンリの仕掛けた爆弾が及ぼした破壊である。北門にいたる下り路が瓦礫の堆積と化している。
    だんっ!
 弾かれたように礼拝堂の扉が開き、切り結ぶ人々と魔群を吐き出した。

 「なんだこりゃあ」スパーダと火焔卿が顔を見合わせているところへ
「キャプテン!」と甲高い青年の声。アンリが長銃を振り回して叫んでいる。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.58 ) 
日時: 2004/10/13 20:03
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「おお、アンリ君。達者か」火焔卿がのんきな挨拶をしながら、幻魔だか悪魔だか判別しかねる魔物を龍で踏み潰した。
 「石舟斎どのはどうした」スパーダが、鱗状の鎧に身を固めた魔物の胴に弾をぶち込みながら訊く。

 「ムッシュは地下に。皆を逃がせと私に」青年はうろたえた答えを返す。

 「なんのこっちゃ、分らんな」火焔卿は剣を振り回して魔物の首を刎ねる。皮膚の無い顔が宙で哭いた。

 「君は従者なのに主人を置き去りにしたのかね」スパーダが冷たく訊いた。
魔弾の銃ソクラテスプラトンを交差させて、両側から襲ってきた魔物を同時に片付けた。

 「違います、ムッシュの言いつけどおりに働いているんです」青年も向きになって言い返した。

 「口を動かしている間、手がお留守になっているぞ」火焔卿が青年の背後に迫った魔物を剣で串刺しにし
「ところで、こやつらは何だ?」と思い出したように訊いた。

 「知りませんよ。私等が地下から逃げてきたら、礼拝堂一杯にこいつらが待ち構えていて襲い掛かってきたんですよう」
 「私等というのは、近在の攫われた人々のことかね」スパーダが前を向いたまま、脇の下から後ろの魔物に銃弾を送り込んだ。

 「どっから攫われたなんて知るもんですか。とにかく化け物にこき使われていた人たちです」

 「それを、オマエが救ってきたというのか」火焔卿は目を丸くして、魔物の頭を蹴り潰した。
 「でかした」とスパーダは上機嫌に二挺拳銃をくるくる回して言った
「特別にルーチェの背中に乗ることを許してつかわす」。

 「いいですよ、そんなおっかないもの」と尻ごむ青年の襟首を捕まえてスパーダは白龍ルーチェの背中に押し上げた。

 「ボッスどちらへ」龍から降りたスパーダをいぶかしんで火焔卿が問う。
 「とりあえず中へ。石舟斎とアラストルを探しに行く」スパーダは大剣を抜いた。
 「お供しましょう」と云いさす火焔卿にスパーダは
「オマエとアンリはここの魔物を片付けて、人間を生かして逃がすんだ」と命じた。

 紫色のコートを翻してスパーダが疾駆する。
 スティンガーで途中の障碍をなぎ倒しながら礼拝堂の中に滑り込んだ。
 
 「推参なり!いづくの下郎ぞ」凛と女の声が響いた。薄暗がりの中に蹲る多くの気配。その中央の壇上にすっくと立った女のシルエットがスパーダを咎めた。

 「私はキャプテン・スパーダ。魔物を狩るのが私の仕事だ」スパーダは剣を背に納めると一礼した。
 蹲るモノどもが「うひょひょひょひょ」と低く笑った。、
 「噂に聞こえた悪魔狩人とは、そなたが事か」女はゆっくりと壇を降り、歩み寄る。手には燐光を発する怪しの杖。

 礼拝堂の破れた天井から時おり洩れる雷光が、女の容貌を一瞬闇に浮き上がらせ消した。

 「ジャンヌ!?」スパーダは我知らず懐かしき女の名を叫ぶ。

 燐光を流星の尾として宙を飛び、怪しの杖がスパーダを襲う。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.59 ) 
日時: 2004/10/25 12:29
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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女は潤んだ声で訊いた
「わたしが聴いた天の声は偽りの神の言葉だったのでしょうか」

スパーダは唇の端を歪めた。答えを返すのがこれほど辛かったことはない。
「お気の毒だが、マドモアゼル。天からの声を聞いたものはあなた一人ではないのだ…」
咽喉を通る声が、まるで他人のもののように虚ろに響いた。

獄中の聖少女は無言でスパーダを見つめる。その先に続く言葉を促すように。
「この荒廃した世界で、来世の幸福を願うよりほかに希望の無い人々なら、誰が天の声を聴いても不思議ではない」

ジャンヌ・ダルクは静かに首をかしげる
この神秘的な騎士が、人の質問にストレートに答えたことが無いのは知っている。
スパーダは続けた。
「だが、多くの人は忘れてしまうのだ。
夢の中で与えられた啓示のように、現実の意識の中からはその強烈な体験が記憶から失われてしまう」

ジャンヌは訊いた。
「なぜ人は神の言葉を自分の裡に留め置く事が出来ないのでしょうか」

「それが人間にとって絶対的な体験だからだ。
裸眼で太陽を見続けることが出来ないのと同様に、人間の脆弱な神経はそれに耐えることが出来ない。
だから忘却と言う安全装置が働く。
だが、神経が焼かれる痛みに耐えながら、その絶対的体験を生き抜く覚悟を抱いた人間も稀にいる。
古代の預言者たちがそうであり、貴女もまたその勇気ある系譜に連なる一人だ」
ここまで言って、スパーダは苦しげに唇を噛んだ。
ジャンヌは物問いたげに瞳を上げ、スパーダの言葉を待った。
スパーダは目をそらして暫らく考える。
やがて覚悟したように言葉を搾り出した。
「そこに悪魔が付け込む」

ジャンヌの頬にかすかな引きつれが生じた。
スパーダは知っている。これが彼女の泣き方なのだ。
他人のために流す涙を惜しまぬ少女は、自分のために泣くことを禁じていた。
それでも心は肉体にかすかなサインを顕す。
過酷な戦争を戦い抜くために、彼女が自らに封じた自憐の涙が頬の痙攣に現れる。

「君の戦いに奇跡が生じたのは、君自身の力だ。
神が君に恩寵を与えたもうたからではない。
1500年前、一介の大工の息子が救世主となったように、
今、一介の農家の娘が救国の英雄となった。
これが人間が起こす奇跡の力なんだ。
これだけは信じていい。
今はまだ、つかの間垣間見た太陽に身を焼き尽くされるイカロスであろうとも、
蛾のように炎に身を焦がされながらも、飽かずに光を求める人間たちの中から、
やがて光に耐えられる子供たちが生まれてくる。
その可能性に賭けるんだ。
だから、私とこの牢獄を出たまえ。
君は生きなければならない」

スパーダは手を差しのべた。

ジャンヌは悲しく笑って首を振った。
「貴方のおっしゃることを信じるならば、それが人間の生きる意味ならば、
なおのこと私は、ここで運命を成就しなければなりません」

「何故だ、もっと分かりやすく話せと言うのか。何度でも言ってやるぞ」

「貴方がおっしゃるように子供たちに賭けろと言うのならば、
私は愛するフランスの子供たちのために私の身体のすべてをプレゼントいたします。
罪無くして処刑されることもまた、私から捧げる供物です。
これが私に訪れる死の意味です」

スパーダは絶句した。
(こ、このバカ女!)

「いろいろお心遣いを頂きまして、ありがとうございました」
ジャンヌは深々とお辞儀した。
「スパーダさん、
あなたは私がお会いした人々の誰よりも優しく懐かしいデヴィルでありました」

数日後、
17歳の少女の身に加えられる悲惨として、およそ奸知の限りを尽くした迫害のすえ、
キリスト教徒どもは彼女の下半身を陽光に晒したまま火磔の柱に縛りつけ公開処刑した。
死刑囚が確かに女であることを知らしめるためである。

好色なまなざしに肌をなぶられながらも、彼女は毅然として美しかった。

スパーダは広場に集まった人間どもを皆殺しにする誘惑に耐えながら、
唇を噛み締めて彼女の死の一部始終を見守った。

足元を焙る炎が、美しいブロンドに燃え移ったとき、初めて小さな悲鳴を上げた。
スパーダは霊体の手を伸ばして、鳩を握りつぶすようにジャンヌの小さな心臓を止めた。

「デヴィル・ネバー・クライ」

いぶかしげにスパーダの顔色を伺う仲間二人に、彼は無表情に呟いた。

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そのころスパーダは人間に失望していた。その失望を希望に変えたのがジャンヌだ。
彼の人間に対する希望をかろうじて地上に繋ぎとめた聖女の記憶は、
スパーダの胸のうちとりわけ美しい部屋に安置されている。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.60 ) 
日時: 2004/10/25 12:31
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 非常識にも刀身がスライドして鎌状に変形する刀だからこそ受け止められた。
 「気短な挨拶の仕方もあるもんだ」
 T字状に折れ曲がった魔剣の首に杖を絡めとってスパーダは言った。
 「そこにおわすは、昔馴染みの聖女であろうかい?」

 スパーダは指を鳴らして小さな火弾を発すると、女の足元に放った。
 小さいながらも鬼火である。
 女の姿と闇に蹲っていたモノどもを浮かび上がらせた。

 「ぬしゃ、今何と申したかえ」女―カトリーヌ・ド・メディシスは若々しい貌をスパーダに向けた。
 左右にはべるはトカゲのごときノーバディの一群。

 「去んぬること100年前、火磔の柱で灰となりし我が友。ジャンヌ・ダルクの貌持つそなたは何者ぞ」
 スパーダは言葉に静かな怒気をはらませた。

 「聖女の生まれ変わりと申せば如何」女は嫣然と微笑む。

 「ふざけんな、この婆ぁ!」スパーダは口汚く罵った。
「あんとき彼女を裏切ったキリスト教徒どもの子孫が、今度は聖女と呼んでジャンヌの貌を盗むか?」
スパーダは刀身を構えた。
「許さねえ。覚悟しやがれ!」

 そのとき襲い掛かってきたノーバディの動きは、スパーダの知る何倍も素早く、意表を突くものであった。
 いくつかの高さで跳躍したノーバディは、それぞれ手にした球形状のものをスパーダに投げつけた。
 とっさにその飛来物を切りつけたスパーダは、破裂した球体から迸る粘液をかぶった。
全身を酸に焼かれるような痛みに襲われ、のた打ち回る。眼窩に火箸を突き刺されたような感覚。
目は光を失っていた。

 「ほほほ」と女が笑う「ギルデンスタン博士が改良したノーバディの目玉の味はどうじゃ」
ローブの裾をまくり、形の良い肢を出してスパーダの背中を踏みつけた。
 「博士は偉大よの。こやつらの運動能力を高めるために、定期的に体内の毒素を排出するように作り変えたのじゃ」

 「その毒は鉄をも腐らせるぞえ。ノーバディの目玉で、そなたの目玉がとろけたかえ?」

 デビルトリガーを発動し、やみくもに剣を振り回した。

 視界を失った闇のあちこちで、獲物が弱るのを狙うジャッカルが包囲網を狭めるように、
バカとかげが「うひょひょ」と笑う。
 (そういえばジャッカルも笑い声を出すな)スパーダは痛みの中でくだらないことを考えた。

 何者かに自分の頭が鷲づかみにされ、床に叩きつけられるのを感じた。

 ノーバディは、スパゲティの麺を打つように何度もスパーダを床に叩きつけた。
折れた骨が裂けた肉と交じり合い、皮一枚下で餃子の具のように柔らかく仕上がるまで続けるつもりらしい。
 意外にグルメなのかもしれん、このバカとかげども。

 朦朧とした意識の底で「キャプテン・スパーダも下らない死に方するもんだ」と嘲る声が聞こえた。
 幻覚の映像の中に現れ出た、数々の魔物どもが嘲り、あるいは怒声を浴びせた。
 中でも三眼の魔帝はかんかんに怒っていた。
 「わしを倒したほどの魔剣士が、ノーバディごときに食われて果てるとは…腐ったものだなスパーダ、恥を知れ」

 そのとき、礼拝堂に低いうねりを上げながら巨大なパイプオルガンの音色が響き渡った。
 「気の利いた下僕もあるものよ」カトリーヌは管の集合する基底部にかがんだ人影を見て微笑んだ。
「魔物にもユーモアを解するものが居ると見える。悪魔の最後を飾るレクイエムとは小癪な趣向」
カトリーヌは薄暗がりで明かりも無いまま演奏しているオルガニストを褒めた。

 白痴の執念深さで機械的に叩きつけられる肉体が発する音も水気を帯びてきた。

 「そろそろ食べごろじゃの」
 その声が弾みになったか、
群れに放り込まれた生餌を奪い合う鰐のように、ノーバディどもは犠牲者の肉体をむさぼりはじめた。

 「元気なよい子たちじゃ」
 オルガンの調べは高音と低音がもつれ合う蛇のように絡まり壮重なるテンポを加速していく。
 カトリーヌの上機嫌な笑い声も甲高く響き渡った。

 だしぬけに、ノーバディどもが苦痛の呻きを上げ、腹を上に向けてのたうちはじめた。
 赤子のような泣き声がいっそ不気味である。

 「こりゃ、なんとしたこと」うろたえ見守るカトリーヌの耳朶を、嘲り含んだ笑い声が打つ。

 「ほううん、やはり共食いでも、毒にはアタルものと見える」
オルガニストが奏ずる手を止めぬまま興味深げに言った。

 「そちゃ、なんと」と叫びながらカトリーヌが杖を投げつける。
オルガニストは、軽くかわして鍵盤に飛び乗った。
巨獣の断末魔のごとくパイプオルガンが咆哮する。

耳を聾する大音響の中で、カトリーヌは見た。
天にそびえるオルガンの集合管を背に、闇の中にきらめくモノクルの反射光。
床の上に散乱した犠牲者の断片には、人ならばあろうはずもない太い尻尾。

肉に毒持つノーバディでも、やはり他の個体の毒には免疫性が無かったようだ。
毒の内容もそれぞれということか。
鉄をも腐らせるという猛毒に、直接内臓を焼かれ、これまた毒を含んだ血泡を吹き出しながら、
魔界のオオトカゲは床の上で最後の奇怪なダンスを踊る。
毒に犯された神経が勝手につむぎ出す「死の舞踏」。

 「すり替わりおったか、この悪魔」カトリーヌは絶叫した。

 「人間の手品使いでもこのくらいのマジックは演じる。まして拙者は真物の悪魔」
スパーダは足のつま先で「猫じゃらし」を弾きはじめた。
おどけた格好で腰に添えた手首に【時の腕輪】が嵌められていた。

 「オレたちの魔力を封殺するカラクリは壊れたようだな。同時にあんたの【支配力】を補強していた仕組みもだ」
スパーダは踊るような足取りでオルガンを演奏しながら嘲笑う。
「おかげでDT効果も快調。生き返ったような気分とはこのようなことを言うのであろうなあ」

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.61 ) 
日時: 2004/10/25 12:38
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 迅雷卿アラストルが石舟斎たち二人を抱えて天井の裂け目から地上に出ると、爆発で崩壊した段路の跡地だった。
 結界を発生させるカラクリが潰れたおかげで【霊脳網】が蘇り、仲間二人の居所は地図を指差すようにたちどころに知れる。
 イフリートのいる南門に向かうには、もう一越えしなければならない。
 一方、スパーダは礼拝堂の中。

 「キャプテンスパーダが城内で交戦中?」石舟斎は声を張った「オレたちの頭上で暴れていたのか」。

 「いづれにしろ、もう一飛び」アラストルは翼を整える。

 「オレは礼拝堂に戻る。おぬしはお市どのを安全な場所へ」
と石舟斎に指示されて、迅雷卿ハタと困った。

 イリア村にはもう一人、戦さ装束のマダム・イチが居る、はずである。
(どう、するよ?)

 そんな迅雷卿の懊悩をよそに石舟斎とお市の方は、いちゃいちゃ愁嘆場を演じている。

「わたしもご一緒に」
「ならん、女子供の出る幕じゃない」
「行かないで十兵衛」
「聞き分けてくれ、おゆう」

女は体当たりするように身体をぶつけてヒシとしがみつく

(見てられるか)と迅雷卿はそっぽを向いて後ろ頭を掻いた。

「ふぐう」と石舟斎の感極まったようなうめき声が聴こえる。

何をしているものやら
「いい加減にしろよ」と目を向けた迅雷卿は絶句した。

石舟斎が真っ赤に膨れ上がった貌でお市の方の両肩を鷲づかみにしている。
瞳には「信じられない」という色を浮かべて、
渾身の力を籠めるように全身を震わせながらお市の方を突き放した。

お湯をこぼしたように腹を濡らす感触。
石舟斎は、わが腹をぬぐい、眼前にかざした掌の色を見てかぶりを振った。
ごつい両掌を染めた血の赤。
しばらく呆然と眺めていた石舟斎が野太い声で叫んだ。
「なんじゃ、こりゃあ!?」

迅雷卿は石舟斎が膝を折るのを見て叫んだ。
「なんじゃ、そりゃあ!?」

嫣然と微笑みながらお市の方が血光りする短剣を小手にかざす。
柳生十兵衛、お命頂戴」
幅広の短剣は再び凶光をきらめかした。

「何故だ、おゆう」
それを左腕の籠手で「がっし」と受け止め、血奮いしながら石舟斎が問う。

「まだ気づかないのかえ?鈍い男だ。接吻の味の違いも分らぬダメ男め」
女は空いた手で石舟斎の腹の傷口を殴りつけた。
たまらず地べたに這う石舟斎。

「に、偽者か、オマエ」と迅雷卿、疑念が氷解して叫ぶ。

「勘働きの鋭い迅雷卿を出し抜けたとは光栄。鈍そうな石舟斎はともかく、貴卿にはいつ見抜かれるかと気がきではなかった」
お市の方の顔面に、水面に小波の立つごとく奇妙なうねりが広がる。
女の貌が見る間に剛くなり、厳つい男の貌に変じ始める。
その面貌こそは、柳生石舟斎その人。

「何!」迅雷卿は呆気に取られてデビルトリガーの発動もしばし忘れた。

「不覚…」石舟斎は呻いた。
かつて明智左馬之助から聞かされていたことがある。
幻魔の中には変幻自在の変装の名手がいると。
細胞レベルで相手の能力をコピーする幻魔の名は「スチラード」。
鬼武者1では明智左馬之助自身に化け、対決し、彼を窮地に追い込んだ。
形をまねるばかりではない。模倣した相手の能力を、ある程度使うことが出来るのだ。
左馬之助の剣撃のことごとくを弾き返し、鬼力の光弾を撃ってきた。

その話を石舟斎は思い出していた。
おそらくは、あの接吻のさいに形を盗まれたのだろう。

「ここで石舟斎の命を取り、今度は石舟斎の姿でお市の方を刺す」
石舟斎の姿となったスチラードは身の丈も六尺あまりの巨体。迅雷卿を見下ろしながら、酷薄な笑みを唇の端に刻んだ。

「そのためには、目撃者である貴卿に生きておられてはちと都合が悪い」
地べたでよじれ返っている石舟斎の背を踏むと、屈みこんで腰の剛刀【三池典太】を奪う。
  すちゃり
と抜いて、数多の幻魔の血を吸った破魔の利剣をかざし見る。

 石舟斎の貌で「くふふ」と笑った姿も不気味。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」大乱戦中! ( No.62 ) 
日時: 2004/10/28 11:13
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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「手の込んだことをするものだ」迅雷卿アラストルは首を振りながら言った。
「女一人殺すのに、なぜこんな芝居じみたことを?捕まえてすぐ地下牢で密殺しておけば済む話だろうに」

 「幻魔王信長様の妹を、われらが手にかけたと知れてはご勘気をこうむる」変幻自在の幻魔スチラードは、柳生石舟斎の姿で答えた。
「われらとても、そもそもあの方を弑し奉るつもりは無かった。
つもりは無いが、困ってはいた。
あの方の前に立つと、無条件に服従してしまう下等幻魔が多くてな。
しかも、上つ方にはあの方の存在を疎ましくおぼしめなさる意向も多々あって、モンサンミシェルの駐屯隊にはそれとなく暗殺指示が下されていたのだよ」

「なぜ、わざわざ逃がしたのかね」

「逃がしたのではない。お逃げになられたのだ」

お市の方服従する幻魔の手引きか」

「事情は存じて居るようだ。吾等に止める手段は無かった。
案の定、野に下られて吾等に弓引く旗をお挙げになられた。
お方様が攻めてこられるとならば、これを迎え撃つのは戦の習い。
たとえ、そこでお方様のお命が儚くなられようとも、だれが咎められるわけでもあるまい」

「手の込んだことをするなあ」と迅雷卿は呆れ顔。
「だが、双方とも仕掛けることが出来ず膠着状態と言うわけだろ」

「そんな時、のこのこ現れたのが貴様等だ。
交戦すれば、兵どもが敵将の支配影響力に取り込まれる恐れがある状態で、正面対決などできようはずも無い。
ギルデンスタン博士の支配力強化装置が完成しておれば、こちらから仕掛けることが出来たがな。
それも今は塵埃の夢と化したわ」
スチラードはここでにんまり笑って、
「だが、おかげで積年の敵、柳生十兵衛石舟斎をここで討ち果たし、あまつさえ姿を奪うことが出来た。
貴様等トンマな悪魔たちには感謝している」
手にした日本刀が、雷の属性を帯び変化し始めた。
青白い電流火花が駆け巡るその形容は「舞雷刀」。

「雷の魔人を、鬼の雷の刀で屠るのも一興だとは思わないかね」

「それができたら大いに一驚に値する」迅雷卿は小癪な面構えで言い返した。
「拙者は雷の魔人であるとともに、魔界最高の剣士でもある。
やれるものならやってみたまえ」不敵な笑みを浮かべた。

「くされ悪魔が、丸腰でこの剣どう捌く!?」
肉食獣が獲物に飛び掛るように切りかかってきた。

 迅雷卿はやや前かがみに、両腕を自然に垂れ、斬撃を待った。
 刃の円弧の後に、体を右に開いた迅雷卿の手が添えられる。
 振り切った幻魔の刀は、迅雷卿の力を添えられて、さらに円軌道を延ばす。
 その先にあるのは。
 腿の付け根をざっくりと、自分の刀で割られた幻魔は膝を突いた。

 ――無刀取り――鬼武者こと柳生石舟斎が開いた柳生新陰流の究極奥義。

 迅雷卿は船旅のつれづれに石舟斎と何度も稽古を重ね、互いの技に新しい剣脈を生み出そうと研鑽しあっていたのだ。 ふたりとも、お茶羅気ているようでいて、剣に関してはしっかり生真面目なところがあるので、奥義習得は案外すみやかだった。
 ちなみにこの時、迅雷卿が石舟斎に伝えた技がスティンガーMAXであるのは言うまでも無い。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」大乱戦中! ( No.63 ) 
日時: 2004/10/25 12:36
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「しっかりしろ、石舟斎」と迅雷卿アラストルが抱き起こす、血だるまの柳生石舟斎

 「お見事!と言いたいところだが、まだまだですな」老師のような口調で石舟斎。

 「減らず口叩ける間は死にそうにも無いな」迅雷卿ほっと息をつく。

 「んにゃ、もうだめ。死にそう」言いながら腹をくつろげ、傷口にさらし布を押し込んで手荒な止血を試みている。

 (人間の身体とは面倒くさいものだ)と迅雷卿ふと思う。
鬼武者らしい超能力か神通力であっさり傷口を治してもらいたいものだが、油断しきっているところへ受けた一撃は、なかなか儘ならぬものらしい。

 「甘えてんじゃねえ。何のために海を越えて来たんだ。しっかりしろ。本物のお市の方に会わせてやる。身体に性根をつけろ」

 「傷が痛くてヘバってんじゃない」いい年して拗ねたような口調で石舟斎が答えた。

 「ん?」

 「おりゃあ、幻魔と接吻してしもうた」

 「ああ、あ」と白眼になって迅雷卿ひとこと「忘れろ」

 「簡単に言うなあ」と苦笑した石舟斎、にわかに厳しい表情になって
「おい、早くトドメを刺せ」と迅雷卿の肩越しに、倒れた幻魔を指差す。
その眼に浮かぶ尋常ならざる狼狽の色に、迅雷卿「?」を頭上に載せ、振り返ってガクリと顎を落とした。

 下腹を股から臍まで深く切り上げられた幻魔は、石舟斎の姿のまま内臓をボタボタこぼしながら立ち上がる。
 その幽鬼のごとき姿を包むは紫色のオーラ。憎悪に燃える瞳で、石舟斎たちに右手をかざす。

 「鬼武者!?」迅雷卿はアッケに取られた。
 「鬼変化(おにへんげ)もできたのか」石舟斎の後ろ髪が一斉に逆立った。

 姿かたちを盗み、能力もいささか真似るとは聞いていたが、まさか鬼変化するとは思わなかった。
 この状態の鬼武者がいかに危険かは、石舟斎自身がよく知っている。

 考えてみれば、鬼武者は幻魔の魂を吸収して己れの力に変える~いうなればエネルギー変換器のような体質である。
 その体質をコピーした幻魔は、もともと幻魔なのだからエネルギーのもととなる魂は自前で供給できる理屈だ。
 もちろん命を削ることにはなるだろうが、紫魂を変換して鬼変化するのも不思議ではない。
 不思議ではないが、自分の奥の手を目の前でザコ敵にやられると、さすがの石舟斎もいささか鼻白ばんだ。

 一方、迅雷卿はデビルトリガーの霊圧を高めながら警戒する。
 この春、琵琶湖から京都へ進軍する幻魔戦車部隊一個旅団を、たった二人の鬼武者が殲滅したイキサツは石舟斎本人から聞いている。
 その鬼武者が、コピーとはいえ目の前で自分に向かってきているのだ。

 偽・鬼武者は右手を迅雷卿に向けると、鬼力の塊~鬼炎弾を立て続けに放出した。
 迅雷卿はエアハイクで宙に逃れ、翼を展開しようとする。
 剣の無い迅雷卿にとって、鬼武者相手に有効と思われる攻撃手段はボルテックスしかなかった。

 しかし、鬼炎弾には直進する中心核を追尾する螺旋軌道の小弾が六個おまけに付いている。
 ボルテックスを仕掛ける寸前に、よけ損ねたいくつかの小弾を浴びて、アラストルは吹っ飛んだ。

 偽者とはいえ、凄まじい威力だ。
 ぶつかったのが中心核ならば、迅雷卿ですら跡形も無く消し飛んでしまうだろう。
 メテオどころの騒ぎではない。

 「にゃーはははは」と奇怪な笑い声を上げて偽・鬼武者が再び右手を突き出す。
彼も自分の命を削っての攻撃だ。反撃を省みぬ捨て身の猛攻である。

 「いい気になるなよこのバッタもんが」石舟斎が立ち上がっていた。
「真物の鬼武者がどういうものか、最後に教えてやる」

 いつも首から提げていた数珠を引きちぎった。
胡桃ほどの大きさの水晶玉が、宙に浮いたまま石舟斎の周囲に展開した。

           「聖、和、礼、勇、仁」

 石舟斎の右の掌の梵字が発光すると白に近い紫のオーラが噴き上がった。上空の厚い雲を貫いて光の束が迸る。
 六尺超える大男の石舟斎の体が、さらに膨れ上がって着衣を裂いた。
 その額には大きな二本の角が。
 細胞までが組み変わる「真・鬼武者」への変化。
 【鬼】そのものの姿となった石舟斎は牙を剥きだして咆哮した。

 鬼は偽者が放った鬼炎弾を右腕の一薙ぎで弾き飛ばす。
 偽者は飛び道具の通用しないことを悟って、舞雷刀を振りかざした。

 鬼はその斬撃に向かって左拳を突き出した。
 舞雷刀は鬼の腕を縦に裂いて肘で止まった。

 (なんてマヌケ面だ)迅雷卿は偽者の貌に浮かんだ驚愕の色を見て思った。
 鬼は鉤爪を偽物の腹に打ち込み、こぶしを捻り込むと力任せに内臓を引きずり出した。

 (無茶してるなあ、鬼無茶だ)迅雷卿は、ふと危険を感じてデビルトリガーを解除した。
ヘタに殺気立てていると、鬼に敵と見なされそうな気がしたからだ。

 鬼は自分の左腕に刺さった刀をむしりとると、偽者の頭を鷲づかみに首を刎ねた。

 (やばい!バーサーカーになっているよ、あれ)

 切り落とした偽者の首を天に突き上げて鬼が勝利の雄叫びを上げている。
 敵の生首から滴る血を浴びるように飲んでいた。
 
 とりあえず現場を逃れようと、尻で後ずさりし始めた迅雷卿と、鬼の目がばったり会った。

 (目が会っちゃったじゃねえか!)

 鬼は目を輝かせ、血に染まった貌に、にんまりと笑みを刻んだ。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.64 ) 
日時: 2004/10/25 12:37
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「おのれ悪魔め、成敗してくれる」と叫んで胸をそらしたカトリーヌの全身に、びちびちと鱗が逆立つ。
 
 「てめえの方が余っ程、悪魔じゃねえかよ」苦笑してスパーダは剣を抜いた。

 膨れ上がったカトリーヌの身体には、背中から肉質の翼さえ広がっていた。
 聖女ジャンヌの面影も消し飛んでいる。

 「悪魔を狩るのが私の仕事」スパーダはいつもの文句を口にした。
「狩らせていただく!」

 スティンガーを突っ込んだ先から女の姿は消え、スパーダの頭上を飛び越しパイプオルガンの集合管に張り付いていた。背中の翼の先に生えた鉤爪で、真鍮の管を鷲づかみにしている。

 「どっかで見たような仕様だな」スパーダは呟いて剣を投じた。
ラウンドトリップの刃が届く前に、女は床に飛び降り丸腰のスパーダを襲った。

 スパーダは火焔卿仕込みの体術でそれを躱わし、踵を蹴りおろす。

 蹴りが当たる前に、女の胸骨の間がさっくり開いて紫色の粘液が迸った。

 上半身を覆うほどの大量の粘液は、トリモチのようにスパーダの動きを封じた。思わず目をかばった手が顔から離れない。

 スパーダはデビルトリガーを発動し、粘液を弾き飛ばした。

 「んぐ?」視界が歪む「ノーバディと同じく毒吐きか」

 「失敬な!トカゲと一緒にするな」女は喚いた。

 その声を頼りに、剣を送り込む。

 「ムダムダ」嘲笑しながら女がスパーダの肢を払った。

 床にしたたか背骨を打ち付けて、呻くスパーダの身体を女が跨ぐ。
 翼の鉤爪がするりと伸びて【時の腕輪】を切り落とすと、スパーダの目の前三寸の位置で止まった。

 「さあ、許しを請え。下司な悪魔め。奥の手は封じたぞ」
鱗で覆われた乳房を揺らして、女が見下ろす。

 (なんという悪趣味なデザインだ)スパーダはしげしげと見上げてあきれた。
乳首と股間生殖器に相当する部分に大きな眼球が埋め込まれている。

 「真っ平ごめんだな」こんな変態じみた化け物に降伏する気はさらさらない。

 鉤爪が視界いっぱいに広がって、顔面を生暖かいものが濡らした。

 「次は左だ」声も無く痙攣するスパーダに女は言った。

 「右目くらいはくれてやろう」スパーダがウインクすると女の髪が燃え上がった。

 顔は傷つけたくないと言う女心が仇になったか、カトリーヌは戦いを忘れ絶叫しながら踊るように飛び跳ねる。

 「女だねえ」
 眼窩の奥で、ぞろりと眼球が再生し始めたのを感じながらスパーダは笑った。解毒も進んでいる様子だ。

 ちりちりザンバラ坊主の浅ましい姿となったカトリーヌは肩を震わせて、低く笑い声を響かせ始めた。
「殺すだけでは飽き足らぬよのう、どう虐めて、苛めぬいてくれようか、スパーダ」

 カトリーヌの腹が裂け、めくれ上がった肉質が、手袋を裏返すように身体を覆い始める。
 粘液を滴らせる新しい表皮に包まれた身体は、さらに巨大化を進めている。

 「魔界との通路が開いたか」

 魔界から、さまざまな魔族がカトリーヌの身体の中に入り込んで容積を増やしているようだ。
 表皮のあちこちから、腕や足が生え始めた。
 肉と肉の襞の間に挟まるように、かろうじて元の頭部がのぞいている。
 「どうしてくれようかのうスパーダ」
 変身の過程で閉じていた瞳が「くわっ」と開いた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.65 ) 
日時: 2004/10/08 19:14
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 天井近くまでの巨大な肉塊と化したカトリーヌは、触手を鞭のように旋回させる。
床を腸管のごとき臓物がのたうちまわり、礼拝堂の壁には枝分かれした血管が黴のように生え広がる。
カトリーヌだったものの肉体組織は、礼拝堂の建築を取り込みはじめていた。

 パイプオルガンが蒸気を噴き出しながら勝手に調べを奏でる。
 「今度は私が弾いてやろう。悪魔を憐れむレクイエムを」

 触手の一振りをエアハイクでかわして、礼拝堂の隅からメテオを放つ。
 肉襞の間に覗いた頭部を狙ったが、それは触手の束が壁となって封じられた。
 焼き払われた触手は直ぐ再生し、今度はたて続けにスパーダを襲う。

 スパーダはボルテックスを発動させた。
 六葉の翼を畳んで先端を揃え、錐のように肉塊に揉みこんだ。

 カトリーヌの頭部は肉襞の奥に隠れ、スパーダの攻撃は分厚い肉の塊に阻まれ届かない。
肉を抉り飛ばすたび、傷口から盛り上がってくる再生組織がボルテックスの回転を止めた。

 「!?」

 スパーダの身体は肉塊に絡めとられた。

 「どこから食らうてやろうか、スパーダ」
肉襞から顔を覗かせたカトリーヌが笑う。首をぐいと伸ばして、蛇のようにスパーダの眼前に迫った。

 身動き取れぬスパーダの全身を寧め回し、触手を操って装甲の隙間をまさぐる。
 スパーダの顔半分を覆っていた防護面が剥ぎ取られた。

 「ほほう、なかなかの面構えではないか。その顔がオマエの本性かえ?」
野獣じみたスパーダの面貌を嘲笑い、触手を鼻腔に突き込んできた。

 鼻腔から食道に向かってずるずると長蟲のごとく這い回るものの感触が吐き気を催す。

 「オマエは硬そうだ。内部から食らうてやろうわいなあ」

 礼拝堂に木霊するパイプオルガンの音がひときわ高まりスパーダの頭蓋を震わせる。

 にわかに壁が崩れた。

 青白きボルテックスの軌跡を曳いて飛び込んできた迅雷卿アラストルの後から、髪を振り乱し長大な角を振りたてた鬼が追いすがり、堂内の様子を一瞥するや、誰を敵と見なしたか紫色のオーラを燃え上がらせて、地軸を震わす挑戦の雄叫びを上げた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.66 ) 
日時: 2004/10/10 21:59
名前: Dell


どうも、お話の流れをぶった切ってしまう様でビクビクしながらレスしてます。目障りでしたら言ってください。すぐに消去しますので。
 いきなりですが、羨望しております。凝った文体といい詳しい史実の描写といい臨場感がある戦闘シーンといい、凡てにおいて僕の文体の遥か上をいっていらっしゃいます。個人的にこの小説の三本の指に入る方だと思っております。
 まさか、僕の小説に目を通してくださったとは!

 さて、感慨はこのくらいにします。
 僕は鬼武者は一つとして知らないのですが、コラボレーションしているとは思えないほどスパーダ達三人が際立っていてとても読みやすいです。登場する人が皆、会話のテンポが良く、ホント羨ましい限りです。石舟斎さんが榎木津さんみたいだと仰っていらっしゃいましたが、まさしくそんな感じですよね  そうすると、彼に従うアンネ君は差し詰め関口さんでしょうか?

 話が逸れました。
 ところで、明智サマー之助さんも小説コンテストに参加されるんでしょうか? 新しい設定で書かれる明智さんの小説にも非常に興味があります。

 随分とまとまりの無い感想になってしまいました。いずれまた、感想を書きたいと思います。お目汚しいしました。それでは。これからも密かに応援しています。
 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.67 ) 
日時: 2004/10/13 19:47
名前: 明智サマー之助


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どうもDELLさん。
こういう励ましのお便りはシミジミありがたいことです。
目障りだなんてとんでもない。
神棚の招福猫児「お玉さん」も喜んでおります。

そろそろラストスパートに差し掛かりまして「どう〆るか」悶絶いたしまする此の頃
かえりみますれば、もろもろ思い出すことも多ございます

そも、このお話は今夏の真っ盛り
京極夏彦の新刊「百器徒然袋」が出た頃、書き始めたのでした。

「百器」を読んだせいで、
うちの石舟斎は榎木津さんになるわ
従者アンリ君は電気工の本島になるわ
スパーダは中野の古本屋みたいに理屈っぽくなるし
アラストルとイフリートはアホの下僕のままだし
おまけに私は、何のはずみか豪徳寺まで「招き猫(お玉さん)」を求めに行くわの大騒ぎでございました。

本当はDELLさんの「あくまで夜が明くまでの悪魔の話」のような洒落た話を書きたかったのですが…
予告編を書いているうちに「こりゃあ、オレにはできんわ」と思い知りました。
考えてみれば皆さんが得意にされておられるような「心理描写」ができんのですよ、ワタクシ。

とは申せ「小説コンテスト」には十分乗り気です。
手持ちの乏しい武器を総動員して取り掛かりましょう。
何しろクリスマスシーズン。
書き手の皆様方も腕のダイナモがぶんぶん唸りを立てておられることと存じます。
クリスマスにアクションといえば「ダイハード」ですが、うちはダンテ君に暴れてもらいます。
そう、やっとダンテ君の出番です。

9-11テロ以降の現代ニューヨークで、宅配ピザマニアのダンテ君とトリッシュ姐さんにふりかかる災難。

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「どおーしてオレがこんなジジイの命の面倒見なきゃいけないんだよ」
「ふおふおふお」
        バシイッ!
「今度お尻触ったら首根っこ引き抜くわよ」
「ふおふおふお」
「へい、このジャップじじい!そのケツはオレの断り無く触ってはいかんケツだ!キモに命じとけ」
「ふおふおふお」
「もう厭!二人とも出て行って!」
       どかーん、ぴしゃ!
「ふおふおふお、叱られとる、叱られとる」
「うるへー、指差すなこの糞ジジイ。殺す!」
 冷え切ったダウンタウンの石畳の上を転がりまわる二人の愚か者の上に、しむしむと雪は降り積む…

…てな絵が見えてるんですがねえ、何うなるか先のことは行き当たりばったり。
 じき型を嵌めますので、お待ちくだされたくソーラエ。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.68 ) 
日時: 2004/10/20 18:00
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「逃げてください。逃げましょう」迅雷卿アラストルが早口に言った。

 乱入してきた鬼は、巨大な肉の構造物と化したカトリーヌに掴みかかると、肉の出っ張りという出っ張りを毟り始めた。
 身体を拘束する力が弱まった隙に私は肉塊の罠を脱し、迅雷卿に転がり寄る。
 「何なんだ、あれ」
 「鬼武者ですよ」
 「石舟斎!?」
 いままで何度か鬼変化は見たことがあるが、こんな人間性を失った姿を見るのは初めてだった。
私が知っている鬼変化が月とすれば、これはまさに地獄の太陽である。

 見上げるほどの大きさで、もつれ合う筋肉と粘膜の戦い。
       (巨獣大決戦!)
 「石舟斎は暴走してます。もはやバーサーカーですよ」
 「言葉は通じるのか」
 「聞く耳持ちませんや」
 「最悪だな、それ」

 「ここにいるとトバッチリ食いますぜ。現におれは食いかけた」
 「オマエまで襲われたのか」
 「動くものに反応するようです」
 「恐竜だな、まるで」
 「暢気なこと言ってる場合じゃない。飛びますぜ」
 「飛ぼう」

 空中で浮揚(ホバリング)した私たちは、礼拝堂の中を伺い見ながら
「えらいことになっとるなあ」と囁きかわした。

 再生し続けるカトリーヌの肉塊をひき毟り切り刻む鬼の姿は、泥の中ではしゃぎまわる子供のようにも見える。
 この暴れっぷりを観察するに、ヘタすると悪魔や幻魔以上に厄介なものかもしれない。

 カトリーヌの肉塊は悲鳴を上げながら、礼拝堂の破れ口から外へ這い出していた。
 ぞろぞろと長く芋虫状に形態を変えている。
 その背後から血笑しながら鬼がのしかかって肉を穿り返している。

 もつれ合う二体の化け物が向かう先は南門。
 人間と魔物が睨み合う攻防ラインが展開していた。

 鬼と化した石舟斎ばかりではない。
 鬼の爪から逃げ惑うカトリーヌにも、もはや理性は残されていないように見えた。
 配下の魔群を踏み潰し、蹴散らし、無闇に触手を振り回す。
 原始的な防御反応であろうか、その姿はやがて硬質の殻に覆われ始めた。

 「?」これと似たような化け物を以前見た記憶がある。
 随分昔のことだ。
 
 芋虫状に伸びた肉塊を節のある甲殻で覆ったカトリーヌは、同じく硬化させた組織を棘状に突き出した。
 「!」鬼の身体を「すか」と抵抗感も無く貫き通した。 

 私たちが見守る中、鬼は腹部を貫かれたまま、それを手繰り寄せる。

 芋虫の背面部(?)に、蓋するように被さった甲殻の縁に手をかける。
 蝶番がへしゃげるような音を立てて、力任せに引きちぎるとカトリーヌの頭部だったものがかろうじて見えた。
 唯一残された人間らしき頭部に、鬼は鉤爪を食い込ませる。

 甲羅で覆われた芋虫~としか形容できない化け物は、悲鳴にも似た音響を発する。
 その体側に沿って展開していた魔力の流路からおびただしいエネルギーを迸らせ、建物を破壊し、魔群を巻き込みながら、出鱈目に身をくねらせ城壁を食い破って停止した。

 「腐ってやがる」
 甲羅の下から、どろどろに溶けた組織が流れ出ている。
 本体の死がもたらした腐食は劇的に魔物の全身に及んだ。

 鬼はなおもその残骸を踏みにじり、破壊すべき生あるものの姿を求めて視線をさまよわす。
 危険だ。
 すでに身の丈3メートルを越えるまでに巨大化した鬼は、城壁に手をかけるとゴリラのように身を揺すり、壁を倒そうとしていた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.69 ) 
日時: 2004/10/25 18:37
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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南北門より「モンサンミシェル襲撃」同時進行中
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 「アラストル、しばらくガードを頼む」
 「?」と首をひねって迅雷卿は
「何をなさるおつもりで」片眉吊り上げて訊いた。

 私はミカエル大天使の像が飾られたドームの屋根に降りた。
 「心網で石舟斎の脳にインパクトを与える。うまくすれば正気が戻るはずだ。その間暫らく私は無防備状態に陥るだろう。敵を寄せつけないでくれ」
 
 「あまりお勧めできませんな」と迅雷卿、珍しく分別臭い意見を吐く。
「マスターまでああなっちまったらどうします。世界が終わりますよ。我々には止めようが無い」
 
 私は愛用の銃ソクラテスプラトンを手渡した。
 「その兆しが見えたら、完全に目覚める前にこいつを使ってくれ」
 喪神状態で両側の耳から、迅雷卿の霊気を帯びた銃弾を撃ち込まれれば、いかな私でも地上に存在し続けることは難しいだろう。
 そう告げると迅雷卿は冷静な口調で
「務め、果たしましょう」と言った。

 「頼りにしているぞ」
 私は円屋根に身体を横たえると心の網を広げ、狂え吼える鬼の意識に同期をあわせた。
 霊体の腕を伸ばし、鬼の前頭葉前部に緩やかな刺激を与えようとしたとき、私の意識は渦潮に吸い込まれる木の葉のように、鬼の怒り狂った心に飲み込まれた。

 私は少々うろたえた。全意識が吸い込まれる事態までは想定していなかったからだ。
 泥沼の奔流のような鬼の意識内を進む。私の身体意識は悪魔の姿で自己を保っていた。
 流れが穏やかになり、私は赤く染まった海を行く船の上にいた。意識の第一層である。 
 案の定、ここは船長が逃げ出した難破船のように荒れ果てている。
 積荷が散乱する船室のごとく、さまざまなメモリーや情動の切れ端が散らかっていた。
 この船殻のように見えるものが、かつて石舟斎の人格を統御していたものの残骸なのだろう。

 私は石舟斎という名号の来歴を思い出した。

 浮かまざる兵法ゆえに石舟の
 朽ちぬ浮名やすえに残さむ

 若き日の師、剣聖上泉伊勢守信綱から送られた詩だと聞いた。その後「石舟斎」と名乗り、彼の自意識はこのような舟の形をとって、自己を律していたらしい。
 
 船が浮かんでいる煩悩の海に目を凝らすと、赤く煮えた溶岩と化した。
 意識の水平線上に噴火する火山島が見える。さらなる下層からマグマのごとき破壊衝動を噴き上げ、海面を埋め尽くしていた。
 
 振り仰いだ空は、石舟斎の五感が受けた刺激を反映させている。
 南天に視覚映像が展がり、東西からは左右の耳がとらえた音が響いてくる。

 鬼の目を通した外界では、イフリートの指揮のもと、魔群と戦う人々の姿が雲間に垣間見えた。
 ――雲?
 雷気を帯びた黒雲は、人も魔物も区別無く呑みこむ勢いで叢がり起こっている。
 あの雲は、殺意の表現だ。
 急がねばならない。鬼は次なる破壊のターゲットを見出した。
 鬼が第二の殺戮を開始する前に石舟斎の正気を呼び覚まさねば、私が目覚めたとき地上に動くものの影は失せ果てていることだろう。

 石舟斎の正気はどこに失せたか。
 私はふとあの詩の意味を思い出した。

 「浮かばないからこそ流されることも無く劣化しない石の船のごとく堅固な兵法家であれ」たしかそんな意味だった。

 私は煮えたぎる溶岩の海を見つめる。
「石舟斎はこの下に居る」と理由無く確信できた。
 私は舷側を蹴ると火噴く海に身を投じる。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.70 ) 
日時: 2004/10/25 18:40
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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ただいまサイコダイブ中
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 瞬時の熱痛を感じた後、無音の世界に漂う。
 波一枚下は、冷え切った真空だった。
 その中を星の光のように無数の泡が明滅しながら流れている。

 泡の一つ一つが石舟斎の記憶だった。

 私が居る。
 羅生門の下で剣を構える有角の悪魔。昆虫めいた装甲はデビルトリガーを発動した私の姿だ。
今年の春、ジパングの都で初めて石舟斎と対面したときの私の姿だった。

 明智左馬之助がいる。
 不機嫌そうに、何事か喚き散らして駆け出していった。

 お市の方が居る。風魔コタロウの姿もある。
 これは古い記憶なのだろう。コタロウはまだ少年の姿だった。二人の背後で見知らぬ男が二人、機嫌よさそうに酒を酌み交わしている。槍を背負った好色そうな肥大漢と銃を担いだ長身の男だ。
 「鬼武者2」らしい。

 泡の流れをさかのぼると、石舟斎の子供の頃の記憶が溢れ始めた。
 どこまでも続く、黄金色の秋のススキ野原。
 夕焼けの空が涙で滲んでいる心細い景色に、
「母上」と響き渡る声は石舟斎自身のものであろうか。

 彼は幼少期「母は死んだ」と聞かされて育ったはずなのだが、それでも、まだ見ぬ母を捜し求めて野原を駆け回った子供心があったのだろう。

 記憶は、生れ落ちた最初の夜の夢に至る。
 人が思い出せない最初の記憶。

 だが、泡はまだ続いていた。
 ゼラチン質でくるまれ縺れ合う蛙の卵のように、泡球の密度は増し、その先に渦状星雲が展開していた。

 これより先は個人の記憶を越えた領域と見えた。
 いつの間にか、私は石舟斎の精神がリンクしていた集合意識にまで深入りしていたものらしい。
 幻魔に滅ぼされた鬼族の集合意識。

 私は真白くまばゆい星雲の周囲を用心深く経巡った。

 氷河象を狩る古代人の姿がある。
 私には懐かしい絵面だった。
 強靭な鼻の一振りで吹き飛ばされる古代の狩人たちの背後から、一人の女が前に出る。
 尋常の女で無いことは、全身から吹き出る精気の強さで知れる。鬼族の女だった。
 剣歯虎を引きつれた鬼族の女は氷河象の眉間に石槍を投じた。巨獣に止めを刺した彼女を讃える狩人たち。
 鬼は、この時代から人間と関わってきたものらしい。

 メモリーはさらにさかのぼる。

 シダの林を竜の背に乗った人々がゆく。
 人類誕生以前の先行種――それが鬼族だということか。
 恐竜とともに生活する平和な光景が、突如天から飛来する火の雨によって破られる。
 空を覆いつくす飛行体の列は、熱線と光弾を地上に送り込み、緑と命を焼き払った。
 鬼の男たちは戦闘形態へと姿を変じ、自らの念動力を合わせて飛行体を打ち落とす。
 鬼と幻魔との長き戦いの始まりであった。

 私は星雲のさらに中心へと向かう。
 ここが鬼族始原の地、集合意識の核と知れた。
 手を触れようとしたその時、

 ――キャプテン・スパーダ…

 頭の中、呼びかける声がある。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.71 ) 
日時: 2004/10/25 12:51
名前: 明智サマー之助


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キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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ただいまサイコダイブ中
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 声は女の属性を帯びていた。
 繰り返し誘うように指向性を持って響いてくる。

 私の名を呼ぶ声の主を求め、星雲から身を離す。
 声の方向を頼りに見回すと、どう見てもオリオン座としか見えない星座がある。その星の格子から暗黒馬頭星雲に騎った女が姿を現した。

 「私を呼ぶものは貴女か」

 女の上半身はキモノローブ風の装束だが、その腰から下は蛇の胴体が馬の首に捲きついてうねっていた。
 この神々しくも禍々しい容姿。
 鬼族のメッセンジャーであろう。
 女は笑みを浮かべて言った。
 「キャプテン・スパーダ、わらわの息子が世話をかけます」

 息子?目下、私に世話をかけている者といえば、石舟斎だが…

 「柳生十兵衛宗厳は、わらわの息子」
 「石舟斎のお袋さまか、貴女」。

 この蛇体の女神が彼の母親だというのなら、もしや石舟斎は卵から生まれてきたのか?などとくだらないことを考えた。
 
 「キャプテン・スパーダ、あなたが察したように、ここは鬼族の魂が還るところ。今は地上に肉体持たぬわらわもここの住人です」
 「鬼族は死してなお個我が保存されるのか?」
 「それもいっときのこと。わらわもいづれあの光の核に還ってゆきます」
 「私は石舟斎を探している」
 「承知しております」
 石舟斎の母~名は高女~は、長い爪の生えた手をかざすと、その指の周りに小さな五つの光の球を生んだ。
 「勇和礼勇仁」の五玉は、輪を描いて飛び回る。
 私の意識は、その輪の旋廻に吸い込まれた。

 黄昏刻、
 雲は赤く焼け落ちて、
 風に流れるススキ野原を小さな男の子が走っている。
 手には枯れ木の棒を握り、剣に見立てて振り回す相手は野犬の群れ。狼よりも危険な病み犬が子供を囲んで唸り声を上げる。

 これが夢のような虚のものであることを分っていても、私は手を出さざるを得なかった。子供はそれほど、いとけなく見えた。

 軽く振るった剣に、自ら吸い込まれるように狂犬どもが刃に掛かる。先頭の二、三匹が臓腑をばら撒いて地べたに伸びると、残りの十余匹は仲間の死骸を置き去りに草の根に消える。

 「おじちゃん、強えなあ。オレの父上と一緒じゃ」
 子供は尊敬のまなざしで私を見上げる。私の異形も、大げさな鎧兜の類と解釈しているのか好奇心に満ちた瞳を輝かせている。
 だが、この子は石舟斎のはずだ。

 「いい加減子供の振りはよせよ石舟斎。気持ち悪いじゃないか」
 「気持ち悪くて悪かったな」背後から野太い声が聞こえた。
 振り返ると、日本建築の開け放した座敷に、黒眼鏡をかけた御馴染みの石舟斎が座っていた。
 「筒井順昭に攻められて、親父の家厳はオレを人質に出して降伏した。周囲を敵に囲まれて育ったオレは、守ってくれるものも頼る者も無く、いつ殺されてもおかしくない状況で、密かに幼い獣の牙を研いだ。それがオレと剣との出会いだった」
 囲炉裏の前でキセルをふかしながら語る。
 「ああして、野の獣を相手に稽古していたもんだ」
 野原を指差す先に、男の子の姿はススキの群生に消えてゆく。
 「ここはどこだ」
 座敷に上がりながら訊く。
 「大和国小柳生城。城とは言えどただの陣屋だ。向こうのススキ野原は筒井との領境にあった懐かしくも寂しい場所だ」
 キセルをポンポンとはたいて、管に息を通すと私を見上げ、
「よく追っかけてきたもんだな。感心感心」と言った。
 
 「のん気なこと言ってる場合じゃない。還るぞ」
 「アンタがどうこうすべきはオレではないな」と右の襖をキセルで示すや「つ、つー」と開いた向こうに別の空間が広がっていた。
 
 険しい渓谷の底から天に向かってそびえる禍々しい巨木。奇怪な樹木の梢近くにツタに絡み取られた高女~石舟斎の母親の姿がある。
 その奇怪樹の根元で、泥のような影を相手に剣を振り回している武者の姿は、石舟斎だった。
 「柳生の庄を襲われ、再会したばかりの母親を殺された頃のオレの心だな」とキセルに火を入れながら石舟斎が解説した。

 「当人は乗り越えたつもりだったんだが、ああいう形でシコリになっていたらしい」他人事のように言う。
「あの樹木と影は『死』の象徴だ。どうやらオレは戦い続けることで、失われた母を死から取り戻せると信じているらしいな」

 「そこまで分っているのなら、理性で何とかせんかい」私は思わず声を荒らげた。
 
 「あいにく、オレは【理性】ではない。石舟斎というペルソナだよ」
石舟斎はニンマリ笑うと私の背後を指差した。
 ススキ野原は消え、庭の外、南の空に地上の光景が映し出されている。モンサンミシェルの陸地側に展開する戦場。
 「やれやれ、間に合ったようだ」
 人と魔物の戦列から飛び出して、まっすぐコチラに駆け寄ってくる影。双頭の巨獣にまたがった白銀の鎧の主は…
――お市の方
 亀甲に花剣菱の戦陣旗をなびかせて、視界いっぱいに広がった。
 身をもって、石舟斎の暴走を止めるつもりか?
 イノチガケで恋を成就せんとする乙女のように、思いつめた表情の一騎掛け。
 だが、その姿を鬼の殺意が雲となって覆い始める。


☆---------------------------☆---------------------------☆

 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.72 ) 
日時: 2004/10/28 22:19
名前: Dell


こんばんは。
お市登場!ですね。石舟斎は正気を取り戻せるのか?!
いや、しかし、上手すぎです 
話の設定がツボなので、少し贔屓目が掛かってるかもしれませんが、情景描写が物凄くお上手で羨ましい限りです。

>黄昏刻、
>雲は赤く焼け落ちて、

ここなんかそのまま模倣したいくらいです。それと、最後の二文ですね。こういう、次回を期待させてくれる終わり方は僕の目標です。

今後の展開が気になって仕様が有りません。かと言って、急かしている訳ではありませんので、あまりムリをなさらない程度でこれからも僕等を楽しませてください。なんか偉そうな文体になってしまいました。日々精進ですね。それでは。
 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.73 ) 
日時: 2004/11/02 18:31
名前: 明智サマー之助


お返事遅くなりました、Dellさん

ただいま苦戦中です

とはいえ、今回はビックリ
>黄昏刻、
>雲は赤く焼け落ちて、
のフレーズに反応してくれる人が居たとは嬉しい

いや、私のオリジナルじゃないんですが
なんかの唄の一節で、
気に入ってここだけ憶えておりまして、いつか使ってやろうと…いうのがこのススキ野原のシーンでした

モンサンミシェルはあと二回くらいで大団円を迎えます
ラストを書くのがこんなに苦しいのは今回が初めてです
DMC北斗の拳」の時は楽しかったのになあ…

小説コンテストは中止になってしまいましたが
クリスマス特別企画「聖夜の悪魔狩り祭り」つーノリで
皆さんの新作を拝見できることを楽しみにしております

ええと、私の新作は
話が広がりすぎてしまったので
登場人物を減らし、構成を組みなおしております

やはり短編小説で名前つきキャラを10人以上出してはいけませんな…動かせなくなってしまう

 

 

 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.74 ) 
日時: 2004/11/07 21:46
名前: 神無月


こんばんは、明智サマー之助さん。
こちらでは初めましてですね 神無月です。

毎回楽しみに読ませて頂いておりましたが、あと二回ほどで終わってしまうと聞き、残念です。

鬼武者は1しかやった事が無いのでそれ以降の話は全く知らないのですが、楽しく拝読させて頂いておりました。

スパーダ一行は、果たしてどんな結末を迎えるのでしょうか?
楽しみにしてます。
 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.75 ) 
日時: 2004/11/09 18:06
名前: 明智サマー之助


どうも神無月さん
やっとのことで一回分出来上がりました
あと一回書いてから大団円の章~エンディングへとなだれこみます

サイコダイブなんてさせるんじゃなかった…と後悔の涙雨
こういうシチュエーションを描写するのは初めてだったもんで毛根かきむしりましたよ…ホント
書こうと思えばいくらでも書き足せるのが精神世界の恐いところです
後で読み返したら、何のこっちゃワケわからんなっとるので何度も書き直しました。
(今でも、まだ納得いきませんのです)

NYダンテも上手くいかないし…困ったもんだ、ワシ

 
 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」 ( No.76 ) 
日時: 2004/11/10 12:37
名前: 明智サマー之助


☆---------------------------☆---------------------------☆
キャプテン・スパーダ
モンサンミシェルの魔女」
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ただいまサイコダイブ中
☆---------------------------☆---------------------------☆

 「おい、石舟斎、何とかしろ!」私は喚いた。
「あの雲は攻撃のサインだ。お前の手でマダムを殺す気か!」

 外の世界では、牛のように突進した双頭の巨獣ガートルードと鬼が激突し、筋骨がぶつかり合う鈍い音が響き渡った。
 巨獣の背にあったお市の方の身体は宙を舞い、斜め前方に受身を取る。

 石舟斎はのん気そうにキセルをはたくと
 「さすがオユウだ。見事なもんだ」

 巨獣は、前肢の長大な鉤爪で鬼の腹を掻き毟りながら、二つの首から冷気と電撃を吐きつけた。

 隣の部屋から苦悶のうめき声が聞こえる。
 母親の死の影と戦っていた若き日の石舟斎が、氷漬けになって電撃を浴びていた。外界の出来事と繋がっている。
 上半身を捩れ返して氷を振り払うと、奇怪樹の枝を引き裂いた。

 外の世界―――鬼は巨獣の氷吐く首を掴まえると、その上下の顎に指を掛け、一気に引き裂いた。残った首が絶叫を放つ。
 
 「石舟斎!」私は本気で怒鳴った。

 「火宅の住処(すみか)ご覧ぜよ」石舟斎が妙に節のついた口調で答える「光を知らず、自分が何と対しているかも分らぬまま、ただただ憎悪と破壊、苦痛でのみ外界と繋がったあの部屋を如何にせん」
 
 「こうしてくれる」私は隣の部屋に飛び込もうとした。
 たいした考えがあるわけではない。
 とりあえず、隣で暴れているヤング石舟斎を殴り倒して、縛り上げ
「後はそれから考える」つもりだった。
 その鼻先で襖が閉じて、背後から石舟斎が低く告げる。
 「それは上手くない」
 石舟斎が「ポン」と両手を打ち合わせると四方の壁が倒れて、地平いっぱいに春が展がった。手品のように、全ての部屋が消えている。
 まばゆく舞い散る白の薄片。優しい風と穏やかな陽の光の中に踊るものは、かつて日本で見た桜の花びら。

 石舟斎は「つ」と立ち上がると、花の雨の中に入っていく。
 どこからか声が響いてくる。

           若年の昔より、剣使うことの面白さに
           殺生をするはかなさよ

 「あの部屋は、この俺の心の陰が生み出したものだ。よくよく考えれば、この俺が居る限り、妄執の鬼は光の中で浄化されることはあるまい」

 石舟斎は再び「ポン」と両手を打ち合わせる。
 世界から色が喪われ、モノクロームの光の中を花弁が無心に舞い踊る。
 それは「時の腕輪」を発動した世界に似ていた。

 「何のつもりだ石舟斎」
 「さて何としようの」
 錆びた銀色の世界の中で、ただ石舟斎の姿ばかりが彩り鮮やかに浮かび上がる。
 背中を向けた黒革の戦陣羽織の裾から燃え立つばかりに染め上げた炎の色が毒々しく目を打った。
 
           屍を現す妄執は去ってまた残る
           若年の昔より、剣使うことの面白さに
           殺生をするはかなさよ

 あの声が続いている。謡うように呪文のように、耳の底に響き渡る。
 石舟斎は人形のように振り向いて、腰間から光を迸らせた。
 右手にだらりとさがった肉厚の日本刀は三池典太。
 無造作に両手を脇に垂らした「無行の位」。

 「参られよ」
 「冗談はよせ」
 「冗談と思うかな?キャプテン」と石舟斎は薄く笑う。
 「剣人柳生石舟斎、参るぞ」
 
 感情をなくした仮面のような貌で石舟斎はするすると間合いを詰めてくる。
 
           屍を現す妄執は去ってまた残る
 
 私は剣を抜いた。

           しばらく世間の幻相を観ずるに

 石舟斎は左に流れた。

           飛花落葉の風の前には

 だらんと右手に刀をぶら下げたまま、無造作に私の背後をとろうとする。

           有為の転変を悟り

 私も体を左に回さなければならない。

           電光石火の影のうちに

 石舟斎の刀が掬い上げるように私の脇を襲う。

           生死の去来を見ること

 私は後ろに大きく跳んだ。それしか避けようが無かった。
 着地と同時に膝を折って右手の剣を地面に水平に低く突き出した構えを取る。

           はじめて驚くべきにはあらねども

 石舟斎の貌に初めて表情らしきものが動いた。
 私の剣は石舟斎の手の位置よりも下にある。「無形の位」から発動するあらゆる剣の軌道から、私の姿は死角となっていた。

           されば埋もれも果てずして

 石舟斎が「ニッ」と笑った。
 鋭く澄んだ殺気が私の眉間を拍つ。

           苦しみに身を灼く火宅の棲みかご覧ぜよ

 石舟斎は右手を「つい」と挙げると、すたすた歩み寄る。
 私のスティンガーの射程距離内ぎりぎりまで接近して「ぺた」と半歩だけ足を踏み出した。
 柳生の剣士は足の甲で相手の動き読むという。
 これを唱えて「水月の法」。誘いを掛けているのは分っていた。
 柳生新陰流に言う「後の先」というカウンター攻撃を取るつもりだろう。石舟斎の場合、これがそのまま「一閃」を発動するからなおさら険呑だ。

 私は仕掛けに応じた。
 デビルトリガーの「霊圧」を渾身こめて極限まで高め、必殺のスティンガーMAXを叩き込む。

 石舟斎とすれ違う刹那、鞭で打たれたような衝撃を右腕に受けた。
 勢いのついた体は花弁の中に投げ出される。

――剣はどこだ――

 右手を突いて体を起こそうとして、再び花びらの中にのめる。
 私の右腕は、肘から裁たれていた。

 「能(よ)う出来た」石舟斎の声が殷々と響く。

――剣はどこだ――

 私は膝をよじって立ち上がる。
 色のない世界に、幽玄な霧が低く流れ、背中に鬼の一文字を刻んだ戦陣羽織がゆっくりと振り向いた。

 「石舟斎!」

 花の雨の中、肘から裁たれた私の右腕は剣を掴んだまま、石舟斎の腹を貫いていた。

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」乱戦中! ( No.77 ) 
日時: 2005/01/28 13:09
名前: 明智サマー之助

 

 「うむ」とうなづいて石舟斎は、腹を貫く剣に手をかけた。

 「石舟斎!」私の声は悲鳴のように甲高く響いた。

 「妄執の鬼はここに散る」まばゆく舞い散る白の薄片。
花の雨の中で石舟斎は剣を、ぐいと右脇まで引き回す。
 「おさらば、わが友」と笑った
 途端、
すべての光景が、ガラスに描いた絵を割るように砕け、飛び散った。

 

 意識を失う前、私はジャンヌ・ダルクの面影を見たような気がした。
 哀しき女よ。
 私はそなたの思いを誤解していた。
 貴女は死を見つめ先駆することで永遠を望もうとしたのではなかった。
 貴女は自分自身を供物として未来に分け与えたのだ。
 石舟斎そしてお市の方が、自分の命を相手に捧げつくそうとしたように。
 私が1500年前に予感した「正義の可能性」とは、人間の持つこのような特質に見出されるはずだ。

 今から1500年前
 私は正義に目覚め人間のために魔帝と戦ったとされている。

 魔帝には魔帝の正義があった。
 オーブという生命エネルギーの食物連鎖のはて、魔界という閉鎖空間は枯渇し始めていたのだ。
 魔物同士の共食いを避けるため、魔帝は活路を人間界に求めた。
 まだ、若くエネルギーに溢れた世界。
 そこでならば、魔物たちはさらなる春秋を望めるはずであった。

 私は魔界に背き、それを阻んだ。

 私の行為は十分に報われたことと思う。

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 目を開けると、私は再び意識の第一階層で船の中にいた。
 先と違うのは、海は穏やかな常態で、整頓された操舵室に多くの乗組みがてきぱきと働いていること。
 年齢に若干のばらつきはあるものの、みな石舟斎の顔をしていた。
 「取り舵ヨーソロ、【覚醒海峡】へヨーソロ」
 南天を見上げれば視界は黒く閉ざされ、船は東の薄明へと向かっている。
 「ひとつ訊いても良ろしいか?」私はおずおずと、舵輪を操っている石舟斎に問いかけた。
 「はい、何でしょう」
 どうも、勝手が違う。
 「どうなってる?」
 操舵手の石舟斎は黒眼鏡を鼻先にずらし私を見つめると
 「我々は目覚めに向かって進んでおります。
あの水平線の光を越えると後ろの船長室でのびているオレが目を覚まします」
 と固い口調で言った後、にんまり笑って
「貴殿も早々に戻られるがよろしいな。
コチラが目覚めた後では、自分の身体に戻るのもなかなか骨が折れることだろう」と言って「ぐらあはははは」と哄笑した。
 なにやら妙に人変わりして、無闇に豪快な人格になっている。
 舳先を指差して
「走れ走れ、夜が明ける前に」 
 薄日差す東の海から船に向かって一条の光が波間に道を作っていた。
これを「歩いて渡れ」と言う。

 「無茶言うな!」
 「無茶でもやれ。それともわしらと一緒に新しい柳生十兵衛宗厳の人格の一部となるか?」
 「それは…」お断りだ!
 私は舳先から春の海に飛び降りると、頼りない踏み応えの上を東の光に向かって走り続けた。
 その背後から、あの笑い声が「ぐらあはははは」といつまでも追いかけてくる…

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」終了! ( No.78 ) 
日時: 2005/01/28 13:11
名前: 明智サマー之助


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         大団円~万事よし
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 キャプテン・スパーダが意識を取り戻したとき、目の前にあったのは巨大な銃口だった。
 三秒ほど考えてスパーダは跳び上がった。
 「わ、な、何してんだ」
 アラストルは左指で耳に栓して、目を閉じ、右手に構えた銃をスパーダに突きつけぷるぷると震わせている。
 「撃ちます」思いつめた口調で宣言した。
 「撃つなバカ」円天蓋の死角に身を隠しながらスパーダは喚いた。
 「冗談です」アラストルはニコリともせず銃をおろした。
 スパーダはツカツカと歩み寄り、深呼吸すると、思い切り殴りつけた。

 「石舟斎はどこだ」小手をかざして下界を見おろし訊けば、アラストルは自分の鼻血で大天使の像に猫ヒゲを描き加えながら南門を指差した。

 粛然とうなだれる人々の円の中、地面に横たわる人影に覆いかぶされた戦陣旗が見える。
 「間に合わなかったのか?」
 スパーダは呻きながら地上に飛び降りると、人の列を押しのけ、旗にくるまれた石舟斎のもとへ駆けつける。
 お市の方は、男の頭を膝に乗せ、かがみこんだ姿で何事か囁き続けている。
まるで磔柱から下ろされたばかりのキリストを悼むピエタの図だ。
 「石舟斎!」
 スパーダは叫ぶ。
 「見ろ、ワケの分らん理屈をこねて腹なんぞ切るからこの始末だ。
どうして、おまえら人間はこうも不可解な情熱で簡単に命を捨てるんだ。
起きろ、目を覚ませ。目を開けてもう一度、マダムを抱きしめてやれ。一緒に日本に帰るんだ」

 喚きたてるスパーダを、お市の方は唇に人差し指を立てて制した。その人差し指で今度は自分の腰の辺りを示す。
 「?」
 石舟斎の右手が、さわさわとお市の方の尻を撫でていた。
 「眠っています」
 お市の方は微笑んだ。

 スパーダはゆっくり深呼吸すると、思い切り殴りつけようとした腕をイフリートに押さえられた。
 「殿、ご乱心あそばされたか」
 「離せイフリート。あいつを殴らせろ」
 「石舟斎を殴って何とします」
 「アイツを殴らにゃ、気がおさまらん」
 羽交い絞めにされ引きづられていく。

 騒ぎ立てるスパーダたちを見送って、アンリ君は誰に伝えるつもりか天に向かって銃声を一発、二発…

 そのとき、夜が明けた。

 水平線を破った陽の光が一条、傾いたモンサンミシェルの尖塔を射抜いて、
大天使ミカエルの頬に鼻血で描かれた猫ヒゲをくっきりと浮かび上がらせる。
 アラストルは満足そうにうなづくと
「万事よし」と呟いた。


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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」終了! ( No.79 ) 
日時: 2005/01/28 13:13
名前: 明智サマー之助


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            ヴェネチアにて
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 「それからどうなったかと聞きたいのじゃろう」。

 リアルト橋のたもとで出会った、悪魔を見たことがあるという爺さんは、私の金でさんざ飲み食いした後言った。

 「シェークスピアの喜劇芝居なら、終幕は結婚式のシーンと決まったもんじゃが、この話にそんな落ちは無い。
 乃公の話はここまでじゃ。
 それからのことは極く詰まらん些事じゃよ。
 ムッシュヤギューの大願成就とともに、晴れて自由の身になった乃公は約束の金をもらうと、誰に別れを告げるでもなく、飛ぶようにふるさとに帰った。
 悪魔に関わりあうのはもう真っ平ごめんじゃったからな。

 無人となったモンサンミシェルはその後も暫らくは魔物が徘徊する魔地となっておったようじゃ。
翌年城を破って巨大な蝙蝠が飛び出したとか、とかくの噂が流れていたが、ようは知らん。

 カピタン・スパーダとムッシュヤギューにも、あれきり会うことは無い。

 惜しみも惜しまれもせず、田舎に戻って漁師となり、嫁をもろうて子を成した。
 それから、また戦さに巻き込まれ家族を失い、外国周りの商船に乗り込んだ。
 乃公が海の上に居る間にバロアの王族は滅んでブルボン家がフランスの主となっておった。
 船乗りとしてお払い箱になってからはずっとこのヴェネチアに居る。

 この橋の上から唾を吐いておると、またあの懐かしい悪魔どもが声をかけてくれるような気がしての」

 私は無言でヴェネチア金貨を爺さんの手に押し込むと席を立った。
 私の背中に爺さんの酔言が弱弱しく絡みつく。
 「な、あんた、旅行家ならカピタン・スパーダとその風変わりな仲間たちのことを聞いたことは無いか。
 魔物の力を振るって本物の悪魔を狩る騎士達の噂を。
 ムッシュ・ヤギューは恋人とともにジャポンにたどり着けたのかの?
 な、聞いたことは無いかのう」

 店を出ると、露台のテーブルでアラビアコーヒーを喫んでいた仲間二人が興味深そうに私を見つめた。
 二人とも青と金の二匹の子猫に菓子を与え指でからかいながら、物問うた気な笑みを口元に浮かべて居た。

 私は独り言のように空に向かって呟く
「自分自身が関わった伝説の有り様を人の口から聞かされるという体験はいささか面映くあるな」

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 外洋航路の帆船が水鳥のように美しく沖に流れている。
 ポルトガルを経由し、ジブラルダル海峡を越えて新大陸へと向かう移民船団だ。
 スパーダは仲間二人を促すと桟橋に向かう。
「行こう諸君。新世界で大きな仕事が待っているぞ」

 歩き始めたスパーダたちの後を、青と金の二匹の猫が人懐っこく追って行った。

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    エンディングロールと特典映像
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 その翌年、
 天正十年六月二日、本能寺に集結した明智光秀の軍勢は【幻魔王】織田信長を討ち果たした。
 いわゆる「本能寺の変」である。
 この時、明智左馬之助は三人目の鬼武者ジャック・ブランとともに時空を超えた不思議な冒険の末、本能寺で織田信長と対決した。
 その冒険の中で、モンサンミシェルの城門の鍵が壊されていたわけや、南北路が陥没していた理由であるとか、
あまり物にこだわらない明智左馬之助には知る機会がついぞ訪れることはなかったが、
読者と私~キャプテン・スパーダだけがその理由を知るのである。

 懐かしき友の思い出とともに。

 

 (エンディングロール)

<制作>
   明智サマー之助:キャプテン・スパーダ制作用妄想細胞群塊

<出演>
   キャプテン・スパーダ:クリストファー・ウォーケン
     迅雷卿アラストル:松本人志
     火焔卿イフリート:小錦
 柳生石舟斎(十兵衛宗厳):松田優作
 お市の方(小谷のオユウ):夏目雅子
カトリーヌ・ド・メディシス
ジャンヌ・ダルク(二役):ミラ・ジョヴォヴィッチ
    ギルデンスタン博士:死神博士天本英世
    従者アンリ(晩年も):マイケル・J・フォックス
       モガール牧師:J・P・ベルモント

       その他の人々:エキストラ多数
       その他の幻魔:コンピュータ・グラフィックス
       その他の悪魔:コンピュータ・グラフィックス

<BGM>
          エヴァのテーマ
         鬼武者2のテーマ
    DMC1で城内に流れている変なバロック音楽
       モーツアルト「レクイエム」

<場所ご提供>
         DevilMayCry研究所


<ゲーム結果表示>
 S(スケベ度) :100
 A(アホ度)  :200
 B(バカップリ):200
 C(C調さ加減):600
 D(デタラメ度):どMAX

<評価ランキング>
      「伝説の鬼無茶」


              結果をセーブしますか(yes:no)

☆---------------------------☆---------------------------☆

 【特典映像】

 天正十一年北ノ庄の柴田勝家羽柴秀吉の軍勢が囲んだ。
 柴田勝家は妻であるお市の方を刺すと自ら腹を斬って果てた。

 「勝家殿もお気の毒なこと」
燃え上がる天守閣に浮かぶ二つの影を、遠くから見つめながら女は言った。
 「偽者と相対死にとは」
女の瞳に涙が浮かぶ。

 「貴女はもう十分に苦しまれた」
馬の背に女を乗せながら、野太い声で男は言った。
 「これから秀吉が新たなる幻魔王となった暗黒の日々が始まる。
やつの魔の手は、この国ばかりではなく隣国にまで及ぶだろう。
だが、私は貴女を守り通す。
柳生の庄の棟梁を退いた上は、天下にただ一個の剣士として」
 男は馬の手綱をとると峠道を下り始めた。
「だから、貴女も天下にただ一個の女として私に連れ添うていただきたい」
 女は無言でうなづく。

 巨大な月の下、遠ざかる騎上の影を見送る者があれば、手綱繰る男の後姿に見出したであろう。
 黒革の戦陣羽織の裾から燃え立つ炎を緋で染めた背中に「鬼」の一文字。

 柳生石舟斎~十兵衛宗厳よどこへ行く。

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      【速報】 

      制作決定

 悪魔の力宿りし新たなる男現る!

 主演:ダンテ

 現代、ニューヨークを舞台に、
    ダンテが斬る
    ダンテが撃つ
    ダンテが殴る蹴る

 前作を超えるアクションとお色気
       饒舌とズッコケ
       乱れ飛ぶ銃弾と宅配ピザ

 「オーケイ、10分で十分だ、糞どもを生かしちゃおけねえ」
 「5ミニッツ」
 「むはは、モアザンイナフ」

 (画面に銃弾,二挺拳銃を天に構えたトリッシュのシルエットが「Y」の字に変わる)

  タイトル:デヴィル・メイク・ライ(悪魔は嘘をつく)

 「悪魔を狩るのがオレの仕事だ」
  
  2005年一斉公開…未定

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 Re: キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」終了! ( No.80 ) 
日時: 2005/01/31 23:21
名前: 神無月


お久しぶりです、こんばんは。

遅くなりましたが、完結おめでとうございます。
語り口もですが、スタッフロールとオマケもなかなか面白くて大変楽しく拝読させていただきました。
スパーダ達の後をついて行った猫達は…猫ダンテ君が語り手のスレッドに登場した、あの猫達でしょうか?

次回作も既に書き始めておられるようですね。
拝読できる日を楽しみにしております。
では。
 
 神無月さんへお礼申し上げます ( No.81 ) 
日時: 2005/02/04 19:46
名前: 明智サマー之助


神無月さん、ご祝辞ありがとうございます。

半年がかりでやっと終わらせました。
最初は軽い気持ちで一ヶ月くらいかと想定しておったのですが、
予定していた「全滅エンディング」を変更し、
主人公たちを皆生還させる流れに持っていこうとしたために長期戦と成ってしまいました。

>スパーダ達の後をついて行った猫達は…猫ダンテ君が語り手のスレッドに登場した、あの猫達でしょうか?

ご推察の通りです。
猫ダンテがエンディングに近づいて、
(自分でやったこととはいえ)
あまりに猫二匹が不憫なので、
せめて、若き日の元気な姿を残してやりたいと思いました。
マンガなんかでよくある例のやつです。
枠の外にほかのマンガのキャラがゲスト出演している…アレです。

200年前の
「Captainスパーダvsアルゴサクス戦 with猫たち」の物語もやってみようかと野心を抱き、
頭の中でシミュレートしてみましたが
何も思いつかんので、別の話を書いております。

とりあえず、別スレッドに1本あげましたので御笑読ください。

             明智サマー之助 敬白

 
 Re: アメイジングアドヴェンチャーofキャプテン・スパーダ ( No.82 ) 
日時: 2005/02/05 21:15
名前: Dell


こんばんは。遅くなりましたが、感想を一つ。

最後はまさに大円団、といった感じでもう参りました。最後の柳生石舟斎の科白が格好よすぎです。とても尻を撫でていたやつとは思えません 
それと、キャスティングにも驚きました。アンリ君がマイケル・J・フォックスだったとは! アンリ君晩年後の姿を考えると、バックトゥザフューチャーパート2で未来に行った時の、マクフライ家のメンバーをマイケル・J・フォックスが一人でこなしてたのを何となく思い出しました。
読みやすい文体と深い造詣、世界観が味わえて本当に楽しい気分になった小説です。最後まで本当にお疲れ様でした。次回作にも期待させていただきます。それでは。
 
 
☆---------------------------☆---------------------------☆

 

 


 ――生きて!――
 その声は、雲間を裂いて地表に届いた陽光のように私の心を打った。

 (オマエは私に生きよと言うのか)
 声なき少女は、黒い瞳に光を湛えてうなづいた。

 

 (ならば、もう一度…生きよう)

 

 

 

 

☆---------------------------☆---------------------------☆


キャプテン・スパーダ「モンサンミシェルの魔女」終了! 
 80 1163 2005/01/31 23:21
アメイジングアドヴェンチャーofキャプテン・スパーダ
 82 1216 2005/02/05 21:15